掲載日 : [2016-01-15] 照会数 : 5480
読みたいウリ絵本<36>心打つ少女のやさしさ
[ 文 ユン・ドンジェ
絵 キム・ジェホン
訳 ピョン・キジャ
出版社 岩崎書店 ] [ 70年代の韓国のビニール傘 ]
寒さが一年でもっとも厳しい時期です。冷たい雨なんか降る日には、なんだか心まで冷えてしまいそうになりますよね。そんなときに、読んでいただきたい絵本があります。
今回は『ヨンイのビニールがさ』という、心があたたくなる絵本を紹介しましょう。
韓国の国民から愛されてきた童詩や童謡に絵をつけた、「ウリ詩絵本」という人気シリーズがあります。このコラムでも『しろいは うさぎ』、『よじはん よじはん』、『とんぼ』(第12、15、28回で紹介)をとりあげてきました。今回の絵本も、そのシリーズのなかのひとつ。そう、文が詩の絵本です。
詩人のユン・ドンジェが、この詩を発表したのは1980年代のはじめでした。韓国は高度成長期に入ってもしばらくの間、人々の生活はまだまだ豊かではありませんでした。
当時は多くの国民が、写真のようなビニール傘を使っていたのです。もちろん、しっかりとした布製の傘はありました。けれどもそれは、裕福な人しか買うことのできないものだったのです。
今のビニール傘の骨は、金属でできているのが当たり前ですよね。ところが当時の韓国のそれは竹でできていて、それに薄いビニールがはられただけの、本当に粗末なものだったのです。それでも、穴があいてしまったビニール傘をそのまま使っている人たちも大勢いたといいます。
近年、ビニール傘は、突然の雨に困ったときに、スーパーやコンビニなどで手軽に買うことができ、うっかり置き忘れてしまっても、別に惜しいとも思わなくなりました。しかし絵本の主人公のヨンイが暮らした当時は、ビニール傘は大切なものであり、他人に気安くあげられるようなものではなかったことを知っておいてくださいね。
それでは、内容です。
雨が降る月曜日の朝でした。小学生のヨンイは、学校へいく道でおじいさんをみかけます。おじいさんは文房具屋のとなりの塀にもたれながら座り、雨にぬれていました。その横には、雨水であふれた空き缶が置いてありました。おじいさんは物乞いだったのです。 おじいさんは、子どもたちにからかわれ、文房具屋のおばさんからはひどいことをいわれます。それでも目を閉じたままです。
ヨンイは朝の自習の時間が終わると外に出て、眠っているおじいさんに気づかれないよう、自分のビニール傘をそっとさしかけてあげるのでした。
午後、雨はやみ、青空がもどってきました。学校が終わって家に帰る途中、ヨンイは文房具屋のとなりの塀に、ちらっと目をやりました。もう、おじいさんはいません。でも、そこには……。
絵を担当したキム・ジェホンは、灰色で暗い現実を表し、緑色で人を思いやるやさしさを表しました。おじいさんをからかう子どもたちの傘や、文房具屋のおばさんの服が灰色で、ヨンイの傘が緑色なのにはちゃんと理由があるのです。
絵本を読み終えると、物乞いのおじいさんを思うヨンイのやさしさと、おじいさんのヨンイに対する感謝の気持ちが心にしみわたり、心がぽかぽかとあたたかくなることでしょう。韓国の傑作絵本のひとつです。
キム・ファン(絵本作家)
(2016.1.15 民団新聞)