掲載日 : [2016-08-24] 照会数 : 5496
<布帳馬車>次世代のボール受けとめたい
今春、映画大学を巣立った在日3世の全智愛さんが、監督作品としてつくったドキュメンタリー映画「愛しきトラヂ」を、卒業制作発表会に続きもう一度観ようと思いたった。会場が川崎市ふれあい館だったからだ。映画に出演しているハルモニらが、「自分の作品」を初めて観たら、どう感じるだろうか。そんな好奇心があった。
もう一つ。ヘイトスピーチにさらされていた桜本の地域が、卑劣な差別に負けず、多文化共生という本来の活力をさらにパワーアップするきっかけになればと願ったからだ。
映画は同胞多住地域に住むハルモニらのたくましく生きる日常を描いている。その一方で、「自分は韓国人なのか、日本人なのか」という在日にとっては、永遠の問題提起がコンセプトになっていた。
監督自身、日本名を名乗っていた小学生の時、韓国人だと知られて友達の一人が去って行った辛い記憶がある。大学2年の時、韓国に1年留学。出自に悶々としながら十数年ぶりに江原道の母方のハルモニを訪ね、つかえていた胸のうちを吐露した。「私は何人?」。孫娘の思いつめた表情に戸惑いながらも、ハルモニは淡々と答えた。「それでもあんたは韓国人だよ」。その言葉で吹っ切れた。日本に戻り、本名を名乗るようになった。
同級生の日本人制作スタッフからは、在日アイデンティティの部分はカットすべきと言われ、意見対立で何度も制作が中断した。だが、「この部分が映画の肝だ」と譲らなかった。
今、ドキュメンタリー制作会社で働き、「映像でしかできない情報発信をしたい」と語る。在日の次世代がこれから放るボールを、きちっと受け止めたい。(C)
(2016.8.24 民団新聞)