掲載日 : [2017-05-24] 照会数 : 5437
訪ねてみたい韓国の駅<3>安山線 古桟駅
[ 古桟駅の駅前に延びる水仁線のレール ] [ トノサマガエル生態公園付近。ここを列車が走っていたというのが信じられない ]
哀愁漂う廃線の線路跡
ソウル首都圏電鉄4号線は、大学路、東大門、明洞などソウルを代表する繁華街を通る主要路線だが、郊外に出ると別の顔を見せる。
古桟駅は、ソウルの南、京畿道安山市に位置する駅だ。ソウル駅からは1時間あまりの距離にある。現在は4号線の電車が10分間隔で行き来しているが、正確にはここはKORAIL安山線に属している。周囲には真新しいアパート群や、総合競技場の安山ワースタジアムが並び、ソウルの新興ベッドタウンという趣だ。
「コジャン」と読む駅名は、「곶의 안쪽(コジェ アンッチョク‥岬の内側)」の音に漢字を当てたもの。安山線の駅が開業した1992年当時、この辺りは干潟に面した典型的な漁村だった。駅から海が見えたというから驚きだ。
今はベッドタウン
駅の南口に出てみよう。駅前広場から、細い古レールが敷かれている。誘われるように線路をたどると、懐かしい雰囲気の駅名標や、昔の車両の模型などが置かれていた。ベンチでお弁当を食べているカップルや、写真を撮っている人もいる。
実は、ここはかつて水原と南仁川を結んでいた、国鉄水仁線の廃線跡だ。水仁線は、京畿道でとれた塩や米などを仁川港に輸送することを目的に建設され、37年に開業した。古桟駅も、元は水仁線の駅として開業した駅だ。
解放後も京畿道の人々の貴重な生活の足として親しまれたが、国鉄安山線が開業し、老朽化も進んでいたことから95年12月31日限りで運行を終了した。水仁線は、特殊狭軌(ナローゲージ)と呼ばれ、線路幅が762ミリと通常の鉄道の半分程度しかない小さな鉄道だ。列車も晩年は1日3往復しか運行されなかった。近代的な安山線の高架線と並んで、小さなディーゼルカーがトコトコと走る光景は、時代の移り変わりを印象づけていた。
トノサマガエル公園
水仁線は、手続き上は廃止ではなく「休止」だったこともあり、沿線の多くの区間で線路跡が残された。古桟駅周辺もそのひとつ。長年放置されていた線路跡は、「追憶の狭軌鉄道・水仁線公園」として保存され、ハルシャギクやテンニンギクといった花が植えられるなど市民の憩いの場となっている。高架線には、水仁線が現役だった頃の写真も飾られ、興味深い。
隣の中央駅まで、線路跡に沿って歩いてみる。レール自体が遊歩道になっており、花畑で遊ぶ子供たちの姿もある。やがて、線路は雑草に埋もれ、いよいよ廃線跡らしい趣になってきた。よく見ると、線路脇に木製の観察台があり、その隣には小さな池。「安山水仁線廃鉄道辺トノサマガエル生態公園」だ。
線路は、土を周囲よりも高く盛った上に敷かれている。廃線後、長年放置された結果、線路脇の窪地に水がたまって池となりトノサマガエルが観察されるようになったのだろう。2014年、安山市によって公園に整備された。
中央駅の手前で、線路は途切れる。以前はここにも水仁線のホームが残っていたが、13年頃に、駅前整備事業によって消えてしまった。失われた鉄路の痕跡は、時間をかけて、少しずつ消えていく。
次回も、もう少し水仁線の面影を追ってみよう。
栗原景(フォトライター)
(2017.5.24 民団新聞)