掲載日 : [2017-05-31] 照会数 : 5274
訪ねてみたい韓国の駅<4>水仁線 蘇来浦口
[ 12年に開業した蘇来浦口駅。仁川市郊外の新興住宅地として成長を続けている ] [ 蘇来鉄橋(左)と首都圏電鉄水仁線(右)。訪れるたび奥の高層アパートが増える(14年撮影) ]
汽車を思い出す老鉄橋
古桟駅から4号線の電車に揺られて15分。終点、烏耳島駅で仁川行きの水仁線電車に乗り換える。おや、水原と仁川を結んでいた狭軌鉄道・水仁線は、1995年の年末に廃止になったはずではなかったか。実は水仁線は、現在、かつてとほぼ同じルートで、首都圏電鉄の路線として再整備が進んでいる。烏耳島〜仁川間19・9キロが開業済みで、2018年末には水原〜仁川間が全通する予定だ。近代的な高架線を、最新の6両編成の電車が15分間隔で行き交う様子を見ると、古桟で見た、細い線路の跡と同じ路線とは信じられない。 電車は間もなく橋を渡る。川のように見えるが、周囲は埋め立て地。ここは仁川湾の奥にある干潟、蘇来浦(ソレポ)だ。京畿道始興市と、仁川広域市の市境でもある。
近代的なアパート群
車窓左手には、近代的な高層アパート群が並ぶ一方、右手には、ひなびた魚市場と遊歩道の橋が見える。ここは、仁川湾の肥沃な干潟に育まれた海の幸を味わえる、蘇来浦漁港だ。次の、蘇来浦口(ソレポグ)駅で下車しよう。
蘇来浦口駅は、真新しい立派な高架駅だ。駅前にはコンビニやカフェが並び、その向こうには高層ビルが見えている。
人の流れに沿って5分ほど歩くと、街が急に庶民的な雰囲気に変わる。鮮魚店が建ち並び、観光客が行き交っている。電車から見た蘇来浦漁港だ。その一角から入江を渡る遊歩道の橋が延びている。
実は、この橋は旧水仁線の蘇来鉄橋の跡である。ガーダーと呼ばれる鉄道橋の施設がそのまま残されている。
90年代、蘇来浦漁港はソウル市内から1時間ほどで訪れられる観光スポットだった。蘇来鉄橋を渡る古く小さなディーゼルカーも、蘇来浦の名物になっていた。だが、94年9月、旧水仁線蘇来〜漢大前間が廃止。蘇来鉄橋も廃止された。当時は入江を渡る橋が少なかったため、自治体は正式な橋が完成するまでの臨時の措置として蘇来鉄橋を歩行者に開放した。線路の上に金網と手すりを設置しただけで、その下には幅の狭いレールがそのまま残された。
新しい観光名所に
懐かしい汽車の姿を伝えるこの橋は、いつしか蘇来浦の新しい観光名所となった。魚市場を訪れた人が橋を散策するようになり、橋を見に来た人が、魚市場に立ち寄るようになったのである。家族連れも多く、「昔は、ここを走っていた汽車で水原に行ったのよ」と孫に語りかけるおばあちゃんも見かけた。
橋の上に立ってみよう。すぐ隣を新しい水仁線が通過し、漁港と周辺の新都市を一望できる。筆者は何度もこの橋を訪れているが、来るたびに高層アパートが増えていく。以前は残っていた旧水仁線蘇来駅の駅舎も今は消え、明るい広場になってしまったが、魚市場と鉄橋の懐かしさは、今も変わらない。
昨年、蘇来鉄橋は大規模な改修工事が行われた。鉄道橋時代の遺構はそのままに橋のスペースが拡大され、より安全に通行できるようになった。
鉄橋は、今年建設80周年。橋に隣接して蘇来歴史館もオープンし、漁港と水仁線の歴史を見ることができる。韓国の成長と変化を手軽に体感できる、貴重なスポットだ。
栗原景(フォトライター)
(2017.5.31 民団新聞)