掲載日 : [2017-06-14] 照会数 : 5423
訪ねてみたい韓国の駅<5>仁川空港磁気浮上式鉄道 龍遊
[ 舞衣島行きの船着き場 ] [ 磁気浮上式の車両 ] [ 龍遊駅舎 ]
未来と過去の乗り換え駅
仁川国際空港のターミナルを出ると、駐車場の向こうに、金浦空港やソウル駅と直結する空港鉄道の駅がある。空港鉄道の乗り場は地下1階だが、同じ建物の2階に発着する電車があることをご存知だろうか。
これは、仁川磁気浮上式鉄道と呼ばれる新交通システムだ。ソウルなどとは反対の、空港の西へ向かって延びている。磁石の反発力を応用して車体が軌道から浮き上がって走行するリニアモーターカーの一種で、2016年2月3日に開業した。
運賃無料の実験線
磁気浮上式鉄道は、実用化試験を行う実験線として建設され、今のところ運賃は無料。15分間隔で運行している。その終着駅が、龍遊駅だ。8月末、磁気浮上式鉄道の見学を兼ねて、龍遊駅に降り立った。
駅前には、立派な道路の向こうに、ひなびた雰囲気の集落がある。昔ながらの地方の町といった趣だ。振り返ると、空港鉄道の車両基地の向こうに、空港の近未来的なターミナルが見える。駅の東西で、全く異なる景色が広がっているのが面白い。
仁川空港は、元々永宗島と龍遊島という2つの島の間を埋め立てて建設された。ここは、ちょうど龍遊島と埋め立て地の境目にあたる場所だ。
駅前から、干潟の中を延びる道をしばらく歩くと、船着き場があった。小さなフェリーに乗って渡った先は、釣りや海水浴場で有名な舞衣島(ムイド)。小さなバスが、1台だけ停まっていた。
「お客さん、日本から来たのかい。ドラマのロケ地を見に来たのかな」
運転手のおじさんが、バスを運転しながら話しかけてきた。舞衣島の海水浴場は、かつて大ヒットしたドラマ「天国の階段」の撮影が行われた場所だ。
バスは土埃を上げながら小さな山を越え、海水浴場に着いた。シーズン終盤の平日で、人影は少ない。仁川湾の美しい海岸を散策し、船着き場に戻るバスに乗ると、先ほどの運転手だった。バスは1台だけで、毎日交代で運転しているという。
「よかったら、この島に泊まっていきませんか。良い宿を紹介します」
おじさんの紹介で、舞衣島に一泊することになった。案内されたのは、島唯一の観光ホテル。空港と陸続きにする橋の建設が始まっており、将来の観光客の増加を当て込んだようだ。平日ということもあってか、格安で泊まれた。おじさんが紹介してくれたからかもしれない。部屋からは、干潟越しに仁川空港の夜景がきれいに見えた。
部屋に荷物を置き、船着き場近くの食堂で運転手のおじさんと夕食。
中東で働いたんです
「僕は、若い頃は建設会社にいて、ずっと中東など海外で働いていたんです。引退してから、このバスを運転するようになりました」
〞漢江の奇跡〟と呼ばれた韓国の高度経済成長時代、多くの男性が労働力として中東など海外で建設業に従事した。おじさんも、その1人だったのだ。
韓国経済成長の到達点とも言える仁川空港がよく見えるこの島で、おじさんは日々小さなバスを運転しながら訪れる人々に話しかけている。
仁川空港磁気浮上式鉄道の終着駅・龍遊駅は、空港と韓国の歴史を見せてくれる、不思議な始発駅だった。
栗原景(フォトライター)
(2017.6.14 民団新聞)