行くたび姿を変える町 全羅線の終着駅、麗水駅を初めて訪れたのは、2003年夏のことだ。ソウルから特急「セマウル号」で約5時間。ソウルから最も遠い終着駅だった。
年季の入った鉄筋の駅舎周辺は、人影が少なく寂しかった。壬辰倭乱(豊臣秀吉の朝鮮侵略)の古戦場で、李舜臣将軍が根拠地としていた麗水は、近代は沿岸漁業や海運の基地として栄えた。しかし、1998年に麗川市と合併して以降、町の中心は内陸の美坪・麗川地区に移り、旧市街は元気を失っていた。港湾施設に直結していた鉄道も、貨物輸送はトラックに、旅客輸送は高速バスに奪われて、往年の賑わいはない。
がらんとした駅と港 港の先端にある展望台に汗をかきながら登ると、がらんとした麗水駅と港を一望できた。
二度目に訪れたのは、2009年12月。ソウルからの所要時間は4時間半。駅前は相変わらず人通りが少なかったが、周辺では高架道路の建設が始まっていた。
駅前ののり巻き店に入ると、子猫が駆け寄ってきた。黒ブチの、愛嬌はあるが美形とは言えない雑種の猫。以前の韓国では、猫を不吉な動物と考える人が多く、雑種の猫が飼われているのは少し意外に感じられた。
「可愛いでしょう? 名前はナビって言うの。カニかまぼこが好物なのよ」
閑散とした麗水駅には、貼り紙が掲示されていた。
「私ども麗水駅は、このたび新駅舎に移転し、より快適な環境で皆さまをお迎えすることになりました。移転予定日‥ 12月23日午前0時」
この暮れ、麗水駅は約900メートル北の新駅に移転。駅と埠頭周辺を全面的に再開発し、「麗水万国博覧会」を開催することが決まっていたのである。
2年半後の2012年8月。麗水駅の様子は一変していた。移転後の駅は麗水EXPO駅に改称され、会期終盤を迎えた麗水EXPOを訪れる大勢の人々であふれていたのである。ソウルの龍山駅からは高速鉄道KTXの乗り入れが始まり、所要時間は3時間20分。同じ駅とは思えない変貌ぶりである。
かつて旧麗水駅があった場所は、EXPO会場のメインゲートとなり、数え切れないほどの人々が行列を作っている。9年前に駅と港を一望した展望台に上がると、目の前には現代的な博覧会場と、格段に増えた高層アパート群が広がっていた。
所要時間は半分に 2016年10月。4度訪れた麗水EXPO駅は、普段着の姿に戻っていた。ソウル・龍山駅からの所要時間は最短2時間40分。13年前のほぼ半分にまで縮まった。EXPO会場は恒久施設の公園となり、特に水族館のハンファ・アクアプラネットや、セメントサイロを再利用したスカイタワーは、多くの観光客を集めている。 Download 4k, 2160p, 1080p
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韓国の知人の案内で、旧麗水駅前にある老舗の焼肉屋へ。池のある中庭では、ノラの子猫たちが走りまわり、お客に愛嬌を振りまいていた。 食後に、以前汗をかいて登った展望台へ向かうと、立派なエレベーターが完成し、南の入江を渡るゴンドラまで開通していた。大変な変貌ぶりだ。
訪れるたびに、どんどん変化していく麗水EXPO駅とその周辺。少し寂しい気もしたが、刻々と変わりゆく韓国を象徴する駅である。
栗原景(フォトライター)
(2017.6.28 民団新聞)