掲載日 : [2017-07-26] 照会数 : 5616
訪ねてみたい韓国の駅<8>京釜線 亀尾
[ 従来市場の魅力をたっぷり味わえる亀尾のセマウル中央市場。その場で焼豚を切ってくれる ] [ 亀尾駅 ]
市場で作る自分だけの弁当
慶尚北道亀尾市は、朴正熙元大統領の出身地だ。現在は工業都市として発展しており、三星電子や農心など、韓国を代表する企業の工場が東部の工業団地を中心に集まっている。
KORAIL京釜線の亀尾駅は、旧市街の中心にある大きな駅だ。駅ビルには商店が入り、駅前にもファストフードや携帯ショップなどが並んでいる。隣の金泉市に高速鉄道KTXの金泉亀尾駅ができて以来、利用客が減ったとも言われるが、それでも15〜30分に1本の間隔で列車が発着する、町の玄関だ。
そんな亀尾駅前から一歩入ったところに、亀尾セマウル中央市場がある。600以上の店舗集まる在来市場で、狭いアーケードに、食料品店、衣料品店など様々な店舗が並んでいる。
アーケードの中ほど、精肉店の2階に上がったところに、カフェ風のきれいな客席がある。若い女性職員が「お弁当ですか?」と言って、空のプラスチック容器を差し出した。
これは、今話題の「セマウル弁当」だ。市場内の加盟店から好きな惣菜を購入して、自分だけの弁当を作ろうという趣向で、ここ市場振興センターはその受付。1枚500ウォンの専用コインを何枚か購入し、同時に弁当容器を受け取る。加盟店は26店舗あり、食べたいおかずを指さして、コインと引き替えに盛り付けてもらえばよい。キムチなど、たいていのおかずはコイン1枚。焼き豚などの肉料理は2〜3枚だ。コインは1枚単位で購入できるので、足りなくなれば追加もできる。加盟店には、コインをデザインした目印が置かれているので、迷うこともない。
好みのおかずを揃えて振興センターに戻ったら、きれいなテーブルで「いただきます」。ご飯とスープは無料サービスだ。
こうした市場の弁当サービスは、ソウルの通仁市場が2012年に始めた「弁当カフェ」がルーツだ。市場の魅力を手軽に味わえるユニークな弁当として大人気となり、亀尾のような地方に波及した。
在来市場は、韓国らしい雰囲気を手軽に味わえるスポットだが、実際に飲食したりショッピングを楽しんだりするにはハードルが高い。その点、セマウル弁当ならおかずを指さしてコインを渡すだけでよく、言葉が話せなくても在来市場の魅力を存分に楽しめる。
「あら、わざわざ日本からいらしたんですか。亀尾に来てくれてありがとう。うちのおかずは一番美味しいよ」
簡単な韓国語が話せれば、おかずをやり取りしながら会話も弾む。
受付の職員も親切だ。彩り鮮やかに盛り付けた弁当を何枚も写真に撮っていたら、
「スープが冷めてしまったでしょう。温かいものに取り替えてさし上げますね」
こんなフレンドリーな対応も、韓国の市場ならではだ。
亀尾駅へは、ソウルや釜山から「ITXセマウル号」や「ムグンファ号」が頻繁に運行されており、ソウルからは所要約3時間。市場は駅からすぐなので、迷うこともない。ソウルから日帰りも可能で、初めての韓国地方旅行に最適だ。町の南には、ロープウェイで滝や洞窟を巡ってミニハイキングを楽しめる金烏山もあり、夏休みの小旅行にもおすすめだ。
栗原景(フォトライター)
(2017.7.26 民団新聞)