掲載日 : [2017-09-13] 照会数 : 5621
訪ねてみたい韓国の駅<12>長項線 群山
[ 道端で休む猫、近年韓国に猫好きは増加中 ] [ カフェや懐かしい駄菓子屋が並ぶ京岩洞線路村 ]
名所になった貨物線跡
全羅北道群山は、近代化遺産の町だ。日本の支配を受けた時代には、主に米を輸出する港として栄え、約1世紀が経過した現在も、20世紀初頭の建築物が数多く残る。名作「八月のクリスマス」をはじめ、数多くの映画の舞台ともなってきた。
そんな町の玄関、群山駅は、市街地から4キロほど離れた郊外にある。2008年に錦江を渡る橋梁が開通し、長項と群山が鉄道で結ばれた際、旧市街から移転した。遺跡の展示館も併設した立派な駅だが、周囲には何もなく、タクシーかバスで移動するしかない。近年、韓国の鉄道は近代化が進められ相当便利になったが、その結果多くの駅が、高速化のために市内から追い出されてしまった。駅から市内までのアクセスを考えると、かえって不便になったケースもあり、将来がちょっと心配だ。
消える駅の痕跡
さて、群山駅から市内までは、バスで15分ほど。市外バスターミナル前で降りて少し歩くと、「旧駅前総合市場」がある。ここが、かつて群山駅があった場所。2008年1月1日に移転してからは「群山貨物駅」となったが、同年11月には貨物の取り扱いもなくなり、2015年、とうとう駅舎が撤去された。周囲には雑草に埋もれた線路や給水塔が残っているが、超高層アパートが次々と建設されており、数年内に駅の痕跡はなくなるだろう。日本による支配から韓国戦争、そして経済発展までを見つめてきた群山駅は、市場を残して過去のものとなった。
旧群山駅跡から少し歩くと、民家の裏手に突然レールが現れる。左右に民家が迫り、こんなところを列車が走ったのだろうかと思いながら歩いて行くと、大勢の観光客で賑わっていた。
ここは、京岩洞線路村。太平洋戦争末期の1944年に建設され、旧群山駅と製紙工場を結んでいた全長2・5キロの貨物線「ペーパーコリア線」の跡だ。韓国戦争の際、戦禍を逃れた人々が線路脇に住み着き、線路ギリギリに民家が迫る独得の光景が生まれたと言われる。現役時代には、機関車の先頭に職員が旗を持って前方を警戒し、時速10キロでゆっくりと走って行った。
群山駅移転後の2008年7月1日、貨物列車の運行を終了。一時は撤去も検討されたが、その独得の光景から映画やミュージックビデオの舞台に使われたことが話題になり、次第に観光客が集まるようになった。今では、線路に面した民家にカフェや懐かしの駄菓子屋さんなどが並ぶ、群山の代表的観光地だ。
レトロな雰囲気感じ
この日は、夏休み真っ最中ということもあり、カップルや親子連れ、学生グループなど多様な人たちが集まっていた。ちょっと懐かしい感じの学生服を着ている人たちもいる。実はこれ、今韓国で大流行しているコスプレ観光だ。昔の学生服などをレンタルし、当時の若者になりきって懐かしい街並みを歩くというもので、レトロにおしゃれを感じる若い人から、昔を懐かしむ年配の方まで、広い層から人気を集めている。
駄菓子屋の軒先で、首輪を付けたネコが涼んでいた。日陰のレールに、肉球やあごを乗せている。ひんやりして、気持ちいいのだろう。
昔ながらの鉄道風景が急速に失われているのは寂しいが、群山の「線路村」は、かつての鉄道風景を人々に伝え続けている。
栗原景(フォトライター)
(2017.9.13 民団新聞)