掲載日 : [2004-01-01] 照会数 : 8037
対談・「在日」の過去から未来を展望する(04.1.1)
[ 姜徳相氏 ]
[ 俵義文氏 ]
姜徳相氏
俵義文氏
正しい歴史認識広げて…本当に近い隣人関係へ
石原慎太郎東京都知事らに代表される無知・無理解からくる右からの攻撃と反北韓世論にさらされ、在日同胞は息苦しい状況に追い込まれている。日本の植民地支配と侵略戦争の歴史において節目の年となる05年を前に、姜徳相滋賀県立大学名誉教授と「子どもと教科書全国ネット21」の俵義文事務局長に真の隣人関係を築くための歴史認識をどう形成するかについて語ってもらった。
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頻発する妄言
憂うべき排外主義 姜
過去の反省不十分 俵
姜 私が物心つくころから中学、高校、大学と進んだころは「『在日』はよけいものだ」「第三国人」という言葉に象徴されるような差別、排外追放政策が最も激しかったときだったと思います。私は59年から始まった北送問題というのも「人道」という名を借りた日本の敗戦後のこの政策だったと思います。そういうことで私ら「在日」は日本で住む権利、歴史性を持っているということをまず自分で知るということが大事でした。
それを知ってみると、これは「在日」共有の財産にしなければならないし、多くの日本人の皆さんに「『在日』は天から降ってきたものでもないし、地からわいてきたものでもない」「そういう歴史性というものをきちんと認識して、日本が歴史に基づいた共存の社会を目指さないとだめになる」んだと伝える必要性にかられました。
私が歴史を学んだいちばんの要因はそこにあろうかと思います。
昨年からの麻生、江藤、石原といった人たちに代表される様々な歴史的な妄言は、「北」がミスを犯したことがきっかけとしても、そのミスをとらえて明治以来の大日本帝国というものの歴史認識が露呈した、一時のメッキもはげてきた。
しかも、日本全体が右傾化していくなか、それを批判するメディアの声も小さくなっていった。そういうなかで彼らは繰り返し繰り返し妄言を繰り返す。
これが10年前だったら麻生にしろ石原にしろ首が飛んでいただろう。
日本のナショナリズムは韓半島というと油が燃えるように火がつく。日本の民衆が砂のように舞う。そういう歴史がこの150年間あったんだと知らなければ、石原、江藤のような発言はまたまた出てくる。
「在日」と日本人市民が共生しなければならない歴史性というものが、極めて憂慮すべき事態になっていると思います。
俵 最近の3人の発言は基本的な歴史をまったく無視している。知らないのか、知ってて無視しているのか。私は基本的には前者に近いと思う。ほとんど学んでいない、恥ずかしいほど無知だ。
当時、国際連盟というものはなく、韓国には国会などなかった。初歩的な事実をあえて偽ってああいう発言をしたのは恥ずかしいというべきか、悲しいというべきか。
江藤さん、石原さんの講演や記者会見では、正確な歴史認識に基づいて言い返す記者が一人もいなかったことにもあぜんとした。
ここにはこれまでの歴史教育の欠点というか弱点が出ていると思う。
日本は戦後、日本が韓国を植民地にしてきたことに対するきちんとした反省、そういうものを国民の共通認識とする努力をしてこなかった。
戦後の日韓会談にしても始まってすぐの1953年、日本の植民地支配を肯定した日本側首席代表の久保田貫一郎の妄言で中断に追い込まれた。当時の経過を見ると、妄言の直前に当時の外務省が同じことを言っている。決して代表による個人的見解ではなかった。
これに対して、日本のメディアはどうか。日本政府を支持する社説を掲げた。日本の朝鮮支配を正当化するのはメディアも含めて国民全体の共通認識だったといえる。それが是正されないまま今日に至っていることが、3人のああいう発言の根っこにあると私は思う。
ここにきてこういう発言が急に繰り返されているのは95年以降、「新しい歴史教科書をつくる会」を中心とした日本の歴史歪曲運動がそれなりの力を持ってきたため。さらには一昨年の日朝首脳会談以降の異常ともいえる状況がああいう発言の後押しをしている。
そういう意味で3人に代表される歴史認識は、残念ながら今の日本社会の状況をある意味で反映しているように思う。
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日本の戦後体制
負の歴史認識引継ぐ 姜
教科書記述で規制も 俵
姜 日本は米国の原爆に負けたのであって、中国には戦争で勝っていた。朝鮮支配がどれだけ多くの朝鮮人を殺し、不幸にしたかの視点はなくて、逆に日本による近代化であって、恩恵を与えたんだという認識が戦後ずっと続いていたと思わざるを得ない。日本の戦後体制は45年で断絶せず、つながっている。
これに対して、韓半島は分断された。中国は内戦だ。決定的なのは日本の戦後処理をめぐるサンフランシスコ講和条約に侵略戦争の最大の被害国である朝鮮、中国が加わっていなかった。これがドイツと日本の歴史認識に決定的な違いをもたらしたと思う。
日本が45年に負けたのは、米国の原爆で負けたんじゃない。中国の抗日運動、朝鮮の独立運動―こういうものの力比べの中で負けたんだという認識を持たないと、両国の歴史を尊重するという認識は出てこない。
俵 日本では45年までの大日本帝国体制と47年の新憲法体制が本来ならば断絶していなければならないのに継続したものと国民は受け止め、政治もそうだった。
戦後すぐのころは教科書にも侵略戦争や南京虐殺が現れるのですが、55年以降は国家による教科書検定が強まり、そういうものが書けなくなった。従って書けるのは被害の側面だけ。
姜 私が大学で「朝鮮史」の話をすると、学生が「朝鮮は日本の植民地だったことがあるんですか」と、基本的な疑問を出してくる。それくらい日本の高校までの歴史教科書は内容的に貧しい。
「在日」の人権について日本の知識人、マスコミが真剣に考えだしたのは60年代以降の金嬉老事件、小松川事件、あるいは日立の就職差別裁判のころからでした。そういう意味で「在日」の存在は日本の戦後民主主義と国際化を考えるうえで重要なポイントだろう。
俵 日本の戦後から70年代、80年代前半ぐらいまでは教科書で植民地支配の事実に触れているのはごくわずか。当時使われた用語は日本が韓国を併合したではなく、「日韓併合」。双方の意思によって一緒になったと。
植民地支配の状況をある程度教科書に書けるようになったのは82年に外交問題化して以降だ。いまでこそ朝鮮半島に関する記述は不十分ながら比較的自由に書けるようになったが、80年代半ば以降から20年もたっていない。30代半ば以降の人たちは教科書で事実を学ばないできているといってもいいだろう。
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内実なき謝罪
日本国民に浸透せず 姜
教育的措置も不十分 俵
姜 80年代から日本政府は暴言のたび、謝罪を繰り返している。日本政府・社会は謝罪したらその意味、歴史認識を日本の民衆にきちっと広げる努力をしなければならないのに、ほとんどやってこなかった。空疎な謝罪だけで内実が伴っていないのがいちばん大きな問題だ。
俵 実が伴わず、歴史的事実も知らない。だから、いつまで謝ればいいのかという反発を呼び起こし、それが偏狭なナショナリズムに絡め取られていく。ドイツでは祖父や親の世代の戦争責任を追及、まだ社会の中で部分的に残っていたナチス政権の協力者を一掃していく。ところが、日本はそういう発想にはならなかった。これは今日まで負の遺産として引き継がれている。
姜 韓半島と日本の歴史の事実関係から見たら、いまの教科書は昔に比べて良くなったと思う。ただし、その内実はどうだろう。ある世界史の教科書で近隣諸国がどのように扱われているか、ゼミの教え子が分析したことがある。中国が古代から現代までが850行で歴史の流れがある程度わかる。ところが韓半島は全部で82行だった。これはせいぜい刺身のつまみたいなもの。断片的な事実の記載にとどまり、人間がどのように生きて、日本との関係がどのようなものであったかということは、まったく想像できないような締めくくりで終わっている。
私はこういう教科書で習った子どもたちが隣人を尊敬するなど、ありえないだろうと思った。対照的にはるか遠くギリシャやフランスのことはそれなりにきちんと書いている。
俵 それは日本人のなかで朝鮮半島のことを専門的にやる歴史学者が少ないということがあげられる。教科書はそもそも学会での一定の研究成果を反映してつくられるわけで。
姜 韓半島は戦前は日本の植民地、戦後も南北に分断された。日本人には不毛の地であり、朝鮮からは学ぶものはないという認識を多くの人が持っていたと思う。60年代になって初めて梶村秀樹や宮田節子のような人たちが、朝鮮の内在的な発展というものを追究しだした。確かに本格的な研究が始まってから半世紀もたっていない。
俵 たとえば江戸時代の「朝鮮通信使」が中学の歴史教科書に載るのは、90年代に入ってから。「在日」の歴史を考えるうえで格好の材料となる関東大震災の朝鮮人虐殺についても教科書に登場してからまだ10数年もたっていない。
姜 私は関東大震災80周年の昨年、いろんな集会に出たが、現在の日本の右翼的な状況を反映してか、参加者が少ない。研究の質が向上しているのに対し、運動としては小さくなっている。
俵 スウェーデンの首相が97年、議会で現代史シリーズについての構想を発表しています。演説のなかで首相は600万人のユダヤ人が虐殺されたホロコーストの事実について、国民の66%しか知らないという現状を指摘。特に若い世代に知られていないことに危機感を表明し、国民の歴史認識を正すためにきちんと子どもたちに教えていく必要があると訴えた。
スウェーデン政府はこれに基づいてホロコーストの歴史を子ども向けに書いた本をつくって、案内を子どものいる71万戸の家庭に首相の手紙を添えて送った。本を注文したのは26万世帯にのぼったという。政府は30万冊を増刷して注文した全家庭に無料配布した。スウェーデンは第2次大戦当時、中立を守り直接、ドイツとの戦争に荷担したわけではないのに。
姜 政府の謝罪と謝罪後の措置を教育の問題できちっとやっていたならば、だいぶ違っていただろう。形だけ、口先だけの謝罪に終わったために問題があるのだろうと思う。
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「つくる会」
「近隣条項」狙い打ち 俵
姜 ところで「つくる会」の最近の動向は。
俵 01年は事実上、ゼロ採択に終わらせることができた。彼らは4年後にリベンジすると言って今日まで続けている。「つくる会」の教科書は今年4月に改訂版の検定申請をして05年4月に検定が終わり、多分合格するだろう。
「つくる会」の機関紙などによれば、体裁や判型を大きくすることが基本で、歴史観は変えないと言っているわけだから、歴史を歪曲し、韓国や中国を蔑視した部分はそのまま残る。05年の採択で13万冊、10%以上は取るんだといって様々なことをやっている。
どういうことをやっているかというと、引き続き各地でシンポジウムや講演会を開催したり、03年春には「つくる会」の本部で教科書のパネルをつくり、「教科書パネル展」を全国展開している。東京都議会議員が「中国や韓国の教科書がいかにひどいか」という展示会を都庁をはじめあちこちで開催して世論づくりをする。
01年には1万人弱の会員だったが、それでは力が弱いので、会員を増やそうという会員倍増運動をやっている。毎年倍増して来年には、8万人の会員でやるということだ。
今、一番力を入れているのは、「近隣諸国による干渉から歴史教科書を守るための100万人署名運動」で、これは「近隣諸国条項」に風穴を開けるということだ。「近隣諸国に配慮した検定をやるな」ということと、「南京虐殺事件や慰安婦問題を書くのだったら、そういう事実はなかったという説も書け」という両論併記ができる検定にしろという運動を昨年の春からやっている。
「つくる会」は01年と来年とは自分たちにとって情勢が違う。「日朝交渉」以降、世論の風が変わった。今は自分たちに有利な風が吹いている。だから来年には確実に10%以上が取れるんだと。この間、文部科学省に対して彼らが一層有利になるように検定制度、採択制度の改変を要求してきた。「つくる会」と提携している政治家たちも文部科学省に圧力をかけて、一昨年の夏に検定制度や採択制度を改定するための措置を取った。
今年は検定がある年だが、来年に向けて「つくる会」は、各都道府県が設置をし始めている中高一貫校に対して、02年に愛媛で「つくる会」の教科書が3校採択されたことで立ち直ったと位置づけた。今年に愛媛以外でも採択されれば、はずみがつくとしている。
来年には、東京で都立白鴎高校が開校する。その教科書採択が今年8月行われる。ここが「つくる会」の教科書を採択すれば、来年の全国一斉の採択に非常に大きな足場ができると位置づけていて、これに向けて全力をあげている。
愛媛が「つくる会」の教科書を採択したのは、知事が文部科学省のOBだったということだが、同様に東京も石原都知事の意向が反映する。都知事はこの間、議会や講演会の中で「つくる会」の教科書採択の意向を表明している。
今年は白鴎高校の採択を阻止する運動をまず東京でやらなければならないし、同時に、教育基本法の改悪を阻止するのに力を発揮できれば、05年の「つくる会」の教科書採択もくい止めることは可能だ。
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「歴史資料館」
民族的誇りを次代に 姜
俵 異様なまでの朝鮮バッシングや歴史を歪曲する「教科書」によって「在日」が卑屈になったり、韓国を卑下する心配があるが…。
姜 小学生の頃、歴史の時間が一番いやだった。聞きたくなかった。神功皇后や加藤清正の「朝鮮征伐」の授業の時には、みんなが私を見る。小さくなっていた。
それは何かというと、朝鮮はいつも劣等国だ、未開の国だと、日本から見ると質の落ちた国だと、教科書は一貫してそう書いていた。私自身は民族の誇りについて、言葉も知らない、文化も何も知らない。「在日」だから。言われたことに対して何の抵抗もできない。そうかなと思って小さくなり、ひたすら時間が経つのを待っているだけ。
日本の学校に学ぶ「在日」の子どもが、「つくる会」と同じような日本の教科書で教えられた場合、その子どもたちは民族的な自覚とか誇りとか持ってなければ、私と同じようになると思う。
民族団体、あるいはこだわる人たちが少しでも「われわれの歴史は教科書に書かれているように貧しいものではない。すばらしい文化があり、闘った歴史があり、解放を勝ち取った歴史がある」ということを、次の世代に伝えていくことが大事だ。いま民団が提起している「歴史資料館」というのはそういう意味を持ったものであり、同時にわれわれだけの問題ではなく、日本がかつて韓国を併合したということで「在日」があるんだという歴史の共有性を日本の皆さんが学ぶ場、ある意味で国際化を発信する場だ。
「在日」は日本のかつての歴史の営みから出たある必然であり、負の遺産だと思う。歴史をひもといた時に、日本が「在日」と共存するだけでなく、アジアや世界の人たちと共存する開かれた日本という展望が出てくるようにしなければならない。私たち「在日」は本国と日本との架け橋になる存在であるとも思う。
ところが俵さんのお話を聞いていると日本の歴史認識の先祖がえりは来年が分岐点になる可能性が強いように思われる。こうしているうちにも事態は悪いほうに悪いほうに向かっているような気がする。
日本がそういう逆方向に行くならば、「在日」は「在日」で自分たちのアイデンティティはどういうものなのかを後輩に教えなければならない。「歴史資料館」は05年の開館をめざしているが、その意味できわめて重要な事業だと思う。
一つは、私たちの次の世代に素晴らしい歴史を伝える。民族文化に対する誇りを子どもたちに伝えていく。もう一つは、ある意味では日本の「国際化に対する発信の場」という意味を持つ。
もう一つ大事なことは、今まで「在日」は100年くらいの歴史があるが、戦前はこういうものをつくろうとしてもできなかった。戦後になって、「在日」が解放されたということでそれぞれ民族団体ができ、生活権の擁護とか本国との連携とか、いろいろなことをやってきた。しかし、「在日」の歴史、民族を資料館という形で残そうという働きかけはほとんどやってこなかった。
個人でやった人もいるが、個人の力というのは限界がある。有力な団体が後援をして、もっと公共性を持った物として恒久的に発展的に運営ができるという方向に持っていく。05年は1905年の保護条約から100年。その年に資料館ができるという意味は非常に大きいと思う。そのことは「教科書問題」に限らず、閉鎖社会になっていく日本に対して開かれた窓にしたい。在日同胞、「歴史資料館」に心を寄せて下さる日本の皆さん、あるいは本国の皆さんが力を合わせればできる。戦後60年近くなり、今まで「在日」はいろんなことをしてきたが、「歴史資料館」は次の世代に贈る最大の贈り物だと思う。私たち1世はもうほとんど終わり。今やらないと本当の物は残らない。1世の世代が次に伝えるという最後のチャンスだと思う。在日の「歴史資料館」の意義はそこにある。
俵 民団のような大きな組織が「歴史資料館」をつくり、運営するというのは大変いいことだと思う。日本にもあるにはあるが、ほとんどプライベートで、資料を集めるのも、運営も広報していくことも大変だ。ぜひ成功させてほしい。
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日本の右傾向
戦争是認へ意識誘導 俵
北韓の「脅威」を利用 姜
姜 政府の謝罪と謝罪後の措置を教育の問題にきちっとやっていたならば、だいぶ違っていただろうが、形だけ口先だけの謝罪に終わったために問題があるのだろうと思う。「近隣諸国条項」を無視し、「教科書問題」を引き起こしながら、その先に日本が目指そうとしているのは何だと俵さんは考えるか。
俵 それは一言で「戦争をする国」に日本を変えるという動きだと思う。
歴史認識、戦争認識の問題で言えば、2000年の5月にNHKが実施した世論調査で、「日本の戦争が侵略戦争だったかどうか」という質問に対して、過半数を超える人たちが、日本はかつてアジアの国を侵略して、アジアの人たちに被害を与えたという歴史認識、戦争認識を持っている。こういう人たちが、日本が再び「戦争をする国」になっていくことを、積極的に支持するということにはなりにくい。
だからこの戦争認識を「日本の戦争は侵略戦争ではない」「植民地支配も欧米とは違って、日本の植民地支配はいいこともしたんだ」「慰安婦や南京虐殺はすべてでっち上げであって事実ではない」という認識に変えていく必要がある。そういう体制をつくりあげるということと大変深い関係の中で歴史認識、教科書問題がある。
姜 まったく同感だ。愛国心という問題が出てくるわけだが、そこに作られた朝鮮脅威論が出てくる。核だ、テロだ、拉致だと日本の愛国心をくすぐる絶好の的ができてきた。恐らくそういうものを利用する形で戦争をする国家にまっしぐらということになる。そこに韓半島が利用されている。
どうしてか。それは分断されているという状況からくる。分断はわれわれ韓民族から見ると最大の不幸だ。他民族の不幸を利用して自分の国家利益や国家の方向をもっていこうとすること、これは日本の近代の法則だ。その勢いで韓国併合をやってしまう。
戦後、「在日」は解放されたけれども、食えないので闇市をやったが、「三国人が闇市」という、悪いことは全部朝鮮人という新聞報道、これも一種の排外だと思う。相手が朝鮮だと排外に同調し、異論が出てこない。この帝国意識が問題だ。
今の北韓バッシングも朝鮮だからであって、他の国だとこうはならない。中国は大きすぎてできない。近代日本がつくり出した対韓ナショナリズムが非常に大きく左右していると思う。
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05年に向けて
韓・中・日共通歴史副教材執筆へ 俵
歴史資料館在日全体で取組む 姜
俵 「つくる会」の教科書問題をきっかけに、単に「つくる会」の教科書を批判するのでなく、もっと前向きに積極的に問題を解決していきたいと考えている。
01年7月に北京で日本、中国、韓国、北朝鮮の4カ国の国際シンポジウムがあった。その時に日本から参加した歴史学者の荒井信一さんと私が、教科書問題が再び起こらないようにするためには、4カ国で「歴史認識についてのフォーラム」を継続的にやっていく必要があるんじゃないかと提案し、それが支持を受けた。
日、中、韓の3国で共通の副教材づくりをしようとも相談した。3国でそれぞれ委員会をつくり、この間5回国際会議を開催した。各国の開港以降、近現代史が対象で大きなテーマを4つ、それに序章と終章をつけて、大項目にそれぞれ中項目を決めている。03年11月のソウルの会議で最終的に小項目まで合意した。
これから執筆にかかるが資料館同様05年3月から5月の間に3国で同じ内容をハングルと中国語、日本語で同時出版する。これが「つくる会」の教科書に対抗して私たちが子どもたちに学んでほしい3国共通の歴史だ。
初の試みだが、ぜひ成功させたい。日本の歴史教科書の隣国との関係の重大な欠点を相当補えるのではないかと思う。
通史ではなくテーマを決め、3つの国に全部関係するという視野で書き、そういう視野で学んでもらう。「つくる会」と闘う大きな武器になる。
姜 歴史資料館をつくるというのは、「在日」の運動史の一つだ。戦後、祖国が2つに分かれたために、残念ながら「在日」にはイデオロギー対立があった。敵対関係にあったし、分断されていた。歴史資料館というのは、イデオロギーや分断をこえた共通の私たちの歴史認識を示す場だ。
民団がやるから総連が参加しないとか、総連がやるから民団が参加しないとか、そういう壁を乗り越え「在日」全体の資料館にしたい。そういうことで資料を集め展示するものになるだろうと思う。「在日」の壁を低くする運動にもなると思う。統一運動という側面もこの資料館の設立にはある。そのことが日本社会に「在日」をより強くアピールできる場になると思う。
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たわら・よしふみ氏
41年、福岡県生まれ。中央大学法学部卒。「子どもと教科書全国ネット21」事務局長、「歴史教育アジアネットワークジャパン」共同代表。和光大学と立正大学で講師。
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カン・ドクサン氏
32年、慶尚南道生まれ。早稲田大学文学部史学科卒業、明治大学大学院文学研究科史学専攻東洋史専修博士課程修了。一橋大学教授を経て滋賀県立大学名誉教授。
(2004.1.1 民団新聞)