掲載日 : [2017-09-27] 照会数 : 5386
韓国テンプルステイ<13>泰華山 麻谷寺
金九の足跡しのばせる「白凡堂」
2015年にユネスコの世界文化遺産に登録された百済歴史遺跡区のひとつである公州から、バスで約30分。車内には韓服姿で長いひげをはやしたハラボジ(おじいさん)が座り、いかにも古都らしい風情だ。麻谷寺の駐車場周辺は飲食店やホテルが並ぶ。10分ほどで一柱門に着いた。
事務所から配布されたテンプルステイ用の修練服は、パジ(ズボン)の前にチャックがあり、チョッキのボタン2つのうち、ひとつが飾りでつかいやすい。細かい配慮が感じられた。雨もやみ一段落したところで、担当の申イラさんが境内を案内してくれた。
643年に新羅の高僧・慈蔵律師が創建し、高麗中期に普照国師が再建した。忠清南道70余寺の大本山。1000年を超す古刹で、パワースポットとして知られているという。
境内には殿閣のみならず、ゆるやかな傾斜の散策路や松林などがあり、とても広い。本堂の大光宝殿は壬辰倭乱で焼失したが再建された。仏殿内の床がクヌギの木でつくられ、本尊の毘盧遮那仏が東方を向いているのが珍しい。本堂前にある五重石塔は高麗時代末期にチベット仏教の影響を受けてつくられ、壁面に四方を見守る「四方仏」が彫られている。
本堂の真うしろに建つ大雄宝殿も再建されたもので、釈迦、薬師、阿弥陀如来の三世仏を奉安する。本堂の後方には山神閣が存在することが少なくない。本来、仏教とは関係ないものだが、参拝者の多くが詣でていく。韓国独特の伽藍配置といえよう。
この寺院でもっとも古い建物が霊山殿。内部には1000体の仏像がまつられ、特別な礼拝所となっている。「霊山殿」の扁額は朝鮮朝時代の王で仏教に理解のあった世祖の親筆といわれる。
韓国臨時政府の主席で独立運動指導者として知られた金九が僧侶に変身し、3年間ひそんでいた寺としても名高い。彼の号を冠した庵「白凡堂」が保存され、本人の実物大の写真とともに、1946年に立ち寄った際に撮った記念写真や「良心建国」などの親筆が展示されている。隣には白凡によって植樹されたというイブキが歴史を見守ってきたかのように咲きほこっている。
とくに印象ぶかいのが、白凡が愛した西山大師の漢詩。「踏雪野中去/不須胡乱行/今日我行跡/遂作後人程」(雪の野を進むときは乱れて歩くなかれ。わが足跡が後人の道しるべとならん)。金九の胸中を代弁してるかのようだ。境内には「白凡 瞑想の道」となづけられた散歩道があり、散策にふさわしい。
麻谷寺を取り囲む泰華山、明堂水の流れる渓谷の風情がうるわしく、そこでひとりもの思いにふけるのも、至福の時間といえよう。
◇忠清南道公州市寺谷面麻谷寺路966(℡8241‐841‐6226)
山神閣 三聖閣や七星閣とも呼ばれる。小さな祠には白ひげをはやした山神とトラを描いた絵が祀られている。民間信仰の神様が仏教と融合したもので、無病長寿や子孫繁栄を祈願する。
宋寛(韓国文化研究家)
(2017.9.27 民団新聞)