掲載日 : [2004-02-25] 照会数 : 4369
<コラム・布帳馬車>こだわりの店
京急本線のZ駅近くに、「K」という焼肉店がある。小さな店ながらいつも大勢の客で賑わっている。
味が抜群なのは勿論だが、山小屋風の造りが裏通りにある「壺中の天地」といった感であることも人気の秘密である。
店主夫婦二人だけの店だが、本格的な炭火焼きであり、実は何を隠そう「こだわりの店」なのだ。普通の焼肉店では、客が好きな物を注文し、好きに食べられるものだが、「K」ではそれが通用しない時がある。
先日も妻と訪れ、生ビールを頼んだところ、地ビールGを勧めて来た。実は私はそれの濃い目の味が嫌いなのだが、それでも店の威光を恐れた私は愛想笑いを浮かべ、気が付いたら一本注文させられていた。
苦い乾杯の後、今度は「今日は牡蠣の味噌焼きが旬だよ」と店主がのたまわった。困ったことに妻は貝類が苦手である。冷や汗をかきながら、やんわりと断った頃に、お待ちかねの肉が運ばれて来た。さあ焼くぞ!と構えた瞬間、「ロースは生の方が美味いよ!」と釘を差される始末。
確かに鮮度は良さそうだが、我々は肉を焼きたいから来たのである。妻の顔色を伺いながら、不本意ではあるが片面焼きを提案し、レアで食べて見た。美味いような気もするが、黙々と箸を運ぶ妻の表情が読み取れず、段々味がわからなくなった。帰り際、「良い店ね!」と妻が言った。どう解釈したら良いのだろうか…。(S)
(2004.2.25 民団新聞)