掲載日 : [2004-09-15] 照会数 : 5905
<コラム・布帳馬車>歴史の風化と国粋主義
イラクへの自衛隊派遣に反対を表明した芸能人がいる。ベテラン俳優、藤田まこと(71)である。
海軍特別少年兵だった兄は、17歳の若さで戦死した。生前家族にあてた兄のハガキを、公演中に紹介し、反戦を訴えた。「やめろ」と圧力の電話がかかったが、意志を貫いた。戦争に駆り立てた狂気が許せないからだ。
ブッシュ政権がイラクや北韓を「悪の枢軸」と断じて以来、日本の米国追従一辺倒が露骨になった。さらに拉致事件や核露呈が追い打ちをかけ、「北朝鮮脅威論」がまかり通っている。長引く不況の閉塞感に消沈していた日本が、姿を現した「敵」を材料に、内憂を外部に転嫁したのである。
戦争体験が風化していくなか、自らの悪行は隠蔽し、都合よく歴史を改ざんする国粋主義者が跋扈し始めている。
また、活字離れ、思考停止の若者に劇画を使って戦争美化を刷り込む漫画家ら、歴史を歪曲する者たちは、自らがマンガに堕ちていることを歯牙にもかけず、教科書採択にも触手を伸ばした。近隣諸国条項を無視した代物を、「教科書」にさせたのである。希代の差別主義者が都知事にとどまっている間にとの作為が見え見えだ。臭いモノにフタをし、黒を白と言いくるめる愚行は、さらなる愚行への導火線である。歴史の教訓に学ばない態度は、日本の将来にとって害そのものだ。
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(2004.9.15 民団新聞)