掲載日 : [2005-05-25] 照会数 : 4943
<寄稿>河東吉(生野サンボラム理事)(05.05.25)
[ 故郷の民謡にあわせて踊る同胞のお年寄りたち
]
現行の介護保険制度が大きく変わろうとしている。今回の見直しは在日同胞高齢者や同胞介護事業所にとっては厳しい内容となるようだ。生野区で在日同胞高齢者支援センター「サンボラム」の運営にあたる河東吉理事に独自の対応策について提言してもらった。
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無年金に費用増追打ち
事業所は収入減、赤字転落も
見直しの主な内容として来年4月から実施予定の「介護予防サービス」の導入が挙げられる。これは現在、要支援、要介護1〜5という6段階の認定のうち、軽度(要支援、要介護1)認定者へのサービスを別体系にするというもの。
介護予防サービスの内容として筋力トレーニング、栄養改善、口腔ケアなどが新メニューとして上げられている。新たに発足させる地域包括支援センターが、軽度利用者のケアプランを作成したり、民間事業所とともに新メニューのサービス提供者となる。これまで軽度利用者が利用していた通所介護(デイサービス)や訪問介護(ホームヘルプ)は、予防通所介護や予防訪問介護という新たなサービス範疇に繰り入れられ、提供されるサービスのボリュームは制限される。
また、老人ホームなどの施設サービスを受けている利用者は、今年の10月から入居施設での食費や居住費を自己負担しなければならなくなる。負担増となる金額は個々利用者の所得によって異なるが、おおむね2万円から3万円ほどと見込まれている。
今回の見直しは、在宅サービス利用者にとっては提供されるサービス給付(ボリューム)が減少し、施設サービス利用者にとっては自己負担額が増加するという「改悪」ともいえる内容といわざるを得ない。追い打ちをかけるように将来的には介護保険料が引き上げられることも確実視されている。
今回の制度改悪は予想をこえて膨張しつづける介護給付費を抑制するのが狙い。報道などによれば日本政府は現状給付総額の約16%に相当する9000億円の給付圧縮を目標としているようだ。その標的として介護給付受給者の約半分を占める軽度利用者への給付抑制に照準を合わせている。
在日高齢者にとってはさらに複雑となった制度に対する理解・認知が、一層困難になる。このため、介護サービスの利用は現在よりも減少するのではと心配される。例えば、ケアプラン作成において、地域包括支援センターのケアマネージャーや保健師が識字率の低い在日高齢者と円滑な意思疎通ができるだろうか。
介護予防の新メニューが在日高齢者にとっては非常になじみのうすい性質のものだ。そのほとんどが無年金者である在日高齢者が、施設サービスにおいて自己負担額が増えるということも切実な問題となる。
在日高齢者にデイサービスや訪問介護サービスを提供している在日系事業所にとって今回の新制度はどのような影響を与えるのか。導入予定の介護予防サービスの報酬額が確定されていないため、推定できる範囲で私の勤務する事業所での減収金額を試算した。
当事業所ではケアプラン作成、デイサービス、訪問介護という3事業を運営しているが、在日の利用者のうち約75%が新制度で介護予防サービス利用者になるものと予想される。試算の結果、現在の総受給額(事業所収入)の約12%から20%くらいの範囲での減収が予想された。この数字は当事業所運営が赤字に転落することを意味する。他の在日系事業所も同様であろう。
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手当増額運動を
最後に次のような提言をしたい。
①行政機関、介護事業所や民族団体などが在日高齢者に対して介護保険制度の認知・周知活動をで、一層活発にすることにより権利としてのサービス利用を促進させる。
②在日高齢者の無年金状態を勘案し、地方自治体の「老齢福祉手当金」の支給やその増額のための運動を展開する。
③運営に困難を増すと予想される在日系介護事業所に対する民族系金融機関の融資活性化や同胞社会からの財政支援を現実化する。
(2005.05.25 民団新聞)