掲載日 : [2005-05-25] 照会数 : 6038
<コラム・布帳馬車>「その河をこえて、五月」
演出・出演とも韓日人士が共同で行い、02年、朝日舞台芸術賞グランプリと韓国演劇評論家協会が選んだ今年のベスト3賞にも輝いた「その河をこえて、五月」を見た。感情的になりがちな韓日の過去と現在を正面に見据えながらも、流れは決して重くない。お互いに相手のことを認め合い、明るい未来を切り開いていこうというはっきりしたメッセージが伝わってくる。
アリストテレスは『詩学』で、模倣という概念を新たに解釈、演劇肯定説を主張した。すなわち演劇の場合、模倣は事実そのものではなく、人生の真実のようなもの、ありうる姿を描く作業であるという。
人間はわざわざ虚構の世界を創り出し、その中で楽しみながら一段高い次元の人生を味わい、生きる意味を実感する。いい演劇とは、見る人を真実と理想の次元に導くものなのだ。
洋の東西を問わず、演劇が芸術として肯定的な位置を確立したのは近代のことである。今は「文化の顔」とまでいわれるようになり、国際交流でも大きな役割を果たしている。グローバル化時代にあって、人とは何かを問い直す欲求が強まり、演劇の果たす役割はさらに重要になってこよう。演劇は人間を「生の根源」に戻して、人間性を確認・回復させる芸術であるからだ。
サッカーワールドカップ共同開催を記念して生まれたこの作品。韓日友情年にもかかわらず、きしみ合う両国関係によって傷ついた人々の心を癒してほしいものである。(Y・C)
(2005.05.25 民団新聞)