掲載日 : [2005-07-27] 照会数 : 5039
在日百年 〈物〉が語る歴史 第2部−8
国語手当付き試験問題
動員朝鮮人にハッパ
国家総動員体制下に朝鮮から日本に労務動員された朝鮮人は、日本語が分からない者も多かった。例えば全羅南道潭陽郡、咸平郡から北海道の住友歌志内炭鉱に労務動員された501名中、「国語(日本語)」の日用語に「精達スル者」21名、「ヤヤ解スル者」215名、「全ク解セザル者」265名とある(1940年8月15日付の調査報告)。
採炭作業に爆薬を用い、落盤や炭車による死傷事故が絶えない炭鉱では、日本人先山(さきやま)や坑内係と朝鮮人後山(あとやま)間の言語不通は、作業能率の低下だけでなく労働災害の一因にもなる。
寮の朝鮮人通訳も坑内の切羽(きりは・採炭現場)までは下りて来ない。そこで住友歌志内炭鉱では、朝鮮から着山直後に一週間行う坑外訓練の一環として会社労務、鉱務係員らが「言葉の練習」を指導していた。
その一部を紹介すると、発破=ナンボ ノコ(鋸)=ト トロ=クルマ 枠=トメ 鶴ハシ=モツケン 火薬=ヤ 捜検=クムサハンダ 通行禁止=カマアンデンダ 現場=イールカン 風呂二入レ=モツカンへーラ 仕事始メ=イールへーラ 集レ=モトンナ 危イ=ウツテュルダ 此処掘レ=ユゲパラ 乗レ=タラ グズグズスルナ=セギへーラ 一生懸命ヤレ=プチレへーラ 休メ=ノロラ、等々である。
福島県の入山採炭(常磐炭鉱の前身)のように、「皇国臣民化ノ急速ヲ図ルノミナラズ、日常生活ノ向上並二作業ノ熟達二資シ併テ保安ノ強化ヲ期スル為」に「国語手当要綱」を制定し、日本語の熟達程度によって等級に分け、出勤1日に付き特級30銭〜3級5銭を支給する例もあった。
「国語手当細則」には試験問題の実例、合格基準、国語手当の算出及支払方法等が細かく定められている。新規着山朝鮮人に対する日本語指導は多かれ少なかれどの炭鉱でも行っていたが、定期的に試験を実施し、手当を支給してまで日本語を奨励した例は外にはない。
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(在日コリアン歴史資料館調査委員・長澤秀=在日朝鮮人運動史研究会員)
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(2005.07.27 民団新聞)