掲載日 : [2005-08-15] 照会数 : 8083
<光復節60周年>広がる同胞・行政の二人三脚
[ 「110の国籍を持つ外国人住民の4割近くは韓国・朝鮮籍の人々」と話す中山区長 ]
牽引者の中山・新宿区長に聞く
少子高齢化に向かう日本社会は、経済力を維持するためにも若年労働力の確保など外国人を受け入れざるを得ず、外国人との共生は日本人にとって緊急かつ現実的課題だ。東京・新宿区はすでに外国人住民の比率が日本一の大久保地区を抱え、区全体でも外国人住民比率が約10%に達するなど、「近未来の日本」を先取りしている。中山弘子区長も共生社会実現に向けて意欲的な施策を進めており、全国の自治体から注目されている。
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まず交流の場 確保
外国人の集住は地域にプラス…地元の住民意識は前向き
外国人登録者…区民の約1割
−−「多文化共生」をめざす国際都市・新宿づくりの総合的ビジョンをお聞きします。
中山 現在の新宿区民の人口は30万人強で、少しずつですが増えています。その中で外国人登録をしている方が約一割になります。外国人の割合はここ20年ほどずっと増え続けてきたのですが、このところ小康状態で現在は約9・6%、3万人弱といったところです。 確かに外国人住民の割合という点では、日本の最先端を行く数値と言っていいですね。諸外国の主要都市における外国人住民の割合と、ほぼ同じくらいと言ってもいいんじゃないでしょうか。日本国内でも、日系ブラジル人が集中している浜松市や太田市を除けば日本一と言えると思います。 内訳は、4割近くが韓国籍・朝鮮籍で、3割が中国籍です。韓国籍でも、いわゆるニューカマーと呼ばれる方々が目立って増えています。主な滞在理由は留学や就学ですが、最近は定住者が増加しています。
区長に就任して、ちょうど2年と8カ月になりますが、行政としての課題の一つは、少子高齢化社会にどう対応し、そのための住みやすい街をどうつくるのかということ。もう一つが、外国人住民への適切な施策と、いろいろと問題を抱えている歌舞伎町の健全な発展です。
外国人住民が多いことを共生社会を築く上でマイナス要因と考える人もいますが、私はそうは思いません。むしろプラス・イメージとして発信していきたいと思っています。ただ、行政側が外国人住民の意識や、それを迎える日本人社会の意識の実態をちゃんと把握していないんですね。新宿区では、日本人住民と外国人住民それぞれの意識調査を実施しました。その結果は、私から見れば「目から鱗(うろこ)が落ちた」というか、地元住民の意識は、外国人住民のことを想像以上にプラス・イメージとしてとらえているということが分かったんです。
日本人住民への意識調査で、外国人住民が増えることは、外国のいろいろなおいしいものが食べられるとか、知らない言葉が聞けたりいろいろな文化と出会えて興味深いといったような、積極的な評価がかなり目立ちました。そこで行政としては、地元住民と外国人のコミュニケーション、つまりお互いに誤解のないように交流するための手段を確保しなければならないと知りました。
日本語学習の施設充実図る
新宿区の外国人住民は、その数が多いというだけでなく、国籍も110くらいにのぼるんですよ。ほとんど世界中からいらっしゃっているということです。もちろんアジアの皆さんが圧倒的に多いのですが、例えば新宿区はフランスの方々が日本で一番多い街でもあるんです。神楽坂あたりは最近、プチ・パリとも呼ばれているらしいですね。そういう多くの国籍の方々と地域住民がどうコミュニケーションをしていくのか、そのことがまず最初に取り組むべきテーマです。
そのためには、コミュニケーションの道具として外国人住民の皆さんに、もちろん母国語を尊重しながらも、日本語をしっかり学んでもらえる場所を確保することが必要です。それで、区民からボランティアなどを募り、その力を借りながら日本語学習施設を充実しようと思っています。意識調査では、外国人が多く住んでいる地域ほど、外国人との共生を前向きに考えている住民が多いことも分かりました。
例えば最も外国人住民の比率の高い大久保地区などでは、外国人住民は街を活性化してくれるお客さんでもあり、一般的にはアパートなど外国人の入居は難しいといわれていますが、ここではそういう問題はむしろ少なくなってきています。現実的にも共生社会が進んできているんですね。
歌舞伎町から共生文化発信
−−新宿区には日本一の繁華街である歌舞伎町もあって、ここは外国人犯罪の温床のような印象もあり、「怖い」というイメージを持つ日本人も多いようです。そういう意識は外国人差別へとつながりかねません。外国人との共生をはかりながらこの街の治安を維持し健全な地域にしていくという、歌舞伎町を真の国際的歓楽街にしていくための具体的プランとは。
中山 歌舞伎町の主な問題は、違法風俗、暴力団、違法な行為をしている外国人などですが、これらは徹底して取り締まらなければなりません。これらは歌舞伎町で真っ当に生きていこうとする外国人にとっても困るわけですから。外国人の違法行為の中には、より弱者の外国人を犠牲にしている場合もあり、健全に暮らしている外国人と日常的にコミュニケーションをとっていくことが何より大切です。そのことは、困っている外国人を逆に救済することにもなります。
それでこの9月から、歌舞伎町・大久保病院隣りの「ハイジア」というビルに、「多文化共生プラザ」という施設を立ち上げることになりました。そこでは日本語学習支援と同時に、外国人にいろんな情報を提供していこうと考えています。そのために、ここを日本人住民と外国人住民の交流の広場、ネットワークの拠点としようと思っています。
すでに各地区の町内会や商店街の振興組合の方々、大久保地区で共生活動を進めている「共住懇」や韓国人経営者などが組織している韓人会にも協力をお願いしているところです。それらを核として、国籍を超えて一人ひとりの顔が見える交流の広場として、その施設を積極的に生かしていこうと思っています。
健全な環境へ、違法行為摘発
歌舞伎町の再生を私は「歌舞伎町ルネサンス」と呼んでいますが、具体的な施策としては、次の2点です。まず、先ほど申しました、暴力団や風俗店、違法行為をする外国人を徹底して取り締まる。そして、違法なビラや看板、放置自転車などを取り除いて、街並みの美化を進めるということ。いわゆる環境浄化ですね。それと、歌舞伎町は経済活動が活発な繁華街・歓楽街でもあるわけで、違法活動をしていた暴力団や風俗店がビルから抜けたままでは経済活動にはマイナスです。空いた場所に健全な経済活動・文化活動の拠点を招致したいのです。
もともと歌舞伎町は映画館や劇場が集まっている大衆文化の発信地でした。それで、もう一度エンタテインメントの拠点として復活させようという意味も込めて、ルネサンスと名付けました。振興企画の一つとして、クィーンというバンドの曲を使ったロック・ミュージカルをコマ劇場で開催していますが、おかげさまで大盛況です。コマ劇場というと演歌公演で有名でしたが、劇場の協力を得ながら、新たなイベントや企画も呼び込んで、街の雰囲気を変化させたいと思っています。つまり、環境浄化と新たな文化を発信する街作りとの2面作戦です。
地域の出会い、相互理解の柱
−−共生社会の実現を行政だけの掛け声に終わらせず、ボランティアや町内会などを媒介として、様々な人間の出会いをその基礎にしようということですね。
中山 出会いの基本は地域です。住民意識を共有しながら、愛される地域をともに作って行こうということです。誤解や無理解をなくすためにも、出会いが大切です。区では、日本語学習当事者のボランティア養成から始まって、外国人が安心して預けられる保育所整備、地震などに対する災害訓練実施などを進めています。地域に根ざしたお祭りなどにも参加してもらいたいですね。
お祭りといえば、10月9日に「大新宿まつり」が開催されます。今年は朝鮮通信使パレードを計画しています。日韓の有名人も参加する予定です。民団の皆さんもたくさん参加していただけるといいですね。
(2005.08.15 民団新聞)