掲載日 : [2005-09-28] 照会数 : 12212
<民論団論>不当な家事調停委員排除
兵庫県弁護士会 弁護士・白承豪
在日の実態理解できる人を
紛争の早期解決にも…資格に国籍要件なし
ある在日の夫婦が、嫁と姑の関係がうまくいかず、離婚を考えているが、子供の親権者を誰にするか、慰謝料をどのくらい払うのか、話し合いがつきません。また、ある在日の兄弟は、亡くなったアボジの遺産をどうわけたらいいのか喧嘩ばかりでまとまりそうもありません。このようなとき、みなさんはどうされますか。
日本に居住している在日は、このような家庭問題を解決するためには、訴訟を起こす前に、最寄の家庭裁判所に、離婚調停あるいは遺産分割調停をまず申立てるしかありません。これを調停前置主義といいます。もちろん、在日夫婦間、また、亡くなったアボジがウリサラムである場合には、本国法である韓国民法によって解決されなければなりませんし、裁判所もそのように扱ってくれます。
さて、調停はどのように進められるのでしょうか。調停は、調停委員という年配の男性と女性の2人がまず当事者から話を聞き、話の接点を見つけ、できるだけ当事者の話し合いで問題を解決できるように取り持ってくれます。
ところが、日本人である調停委員は、法事のやり方やキムチの付け方に対する意見の違いから生じた在日の嫁さんと姑の亀裂を、いくら説明しても理解してくれません。
また、年老いた父が長男を最も愛し、亡くなる前に、遺産のほとんどを贈与してしまったことや娘には結婚式以外何もしてあげなかったことをいくら語ってもピンときてくれません。
調停委員に在日がいれば、もう少し当事者の話をうまくまとめて、無用な紛争が避けられるし、早期解決につながるのにな〜、と思うこともあります。
このようなことから、私が兵庫県弁護士会の副会長在任中に、弁護士会の推薦委員会の了解を得て、在日の女性弁護士である梁英子弁護士を調停委員として、神戸家庭裁判所に推薦をしました。
梁弁護士は、夫婦の離婚事件をはじめ、子供の虐待事件、相続事件を多く手がけており、家庭裁判所からも厚い信頼を得ているベテラン弁護士です。ところが、いざ梁弁護士を調停委員に推薦したところ、家庭裁判所から梁弁護士を調停委員に選任することはできないとのことでした。その理由は、梁弁護士の国籍が日本ではないということだけでした。
そもそも調停委員の資格としては、「人格識見の高い40歳から70歳未満の者」というだけで、国籍は要件になっていません。
ところが、裁判所は、調停委員の職務が「公権力の行使または国家意思の形成に携わる公務員」であるとの理由で、法律上国籍条項がなくても、「当然の法理」として日本国籍を有しなければならず、いくら人格識見の高い梁弁護士であっても調停委員には選任できないということでした。
話は少しさかのぼりますが、従来は、在日が司法試験に合格しても、裁判官や検事にはもちろんのこと、弁護士にもなることができませんでした。裁判所は、日本国籍がなければ弁護士になるための司法修習生の採用を拒否していたからです。法律上、司法修習生の資格に国籍条項はなかったのにもかかわらず、裁判所は、司法修習生の採用条件として国籍を要求してきたのです。
ところが、弁護士になることを夢見ていた金敬得氏がその問題に立ち向かい、見事にその門を開いたのは皆さんご存知のとおりで、現在は、約60人弱の在日弁護士が日本中で活躍しているのです。
このような経緯も踏まえ、われわれ在日弁護士だけでなく、日本籍の弁護士らも含めて、在日弁護士や在日人格識見者らの調停委員採用拒否に疑問を持ち、今後、裁判所に対してキムチの味の分かる在日の調停委員を選任するよう強く求める運動を展開しようとしています。
(2005.09.28 民団新聞)