掲載日 : [2005-11-09] 照会数 : 11605
中越地震1年 被災乗り越え工房再建
[ 草木染の外壁で再建した工房=新潟県十日町市 ]
[ 岩田重信さん・金由起さん夫妻 ]
十日町で頑張る同胞2世・金由起さん
新潟県十日町市の機屋・染織処「岩清」を夫とともに営む在日韓国人2世の金由起さん(51)。新潟県中越地震で被害を受けた工房の再建では夫妻で外壁材となる板を一枚一枚染め、日本でもあまり例のない「草木染の建物」を完成させた。10月23日、震災から1年を迎え静けさを取り戻した仕事場で、反物を利用した韓服作りが始まった。「岩清の韓服を着て下さるファンの方を増やしたい」と由起さんは話す。
夫と紡ぐ草木染
反物活用、韓服作りも
兵庫県出身の金由起さんが、十日町で生まれ育った伝統工芸師3代目の岩田重信さん(56)の元に嫁いだのは8年前。
機屋・染織処「岩清」は草木染の専門工房で、近在の野山で採取したクルミ、杉の葉、榛(はん)の葉などの草木を染料に、丁寧な手仕事で紬の銘品を織り上げている。
趣味で織物をしていたという由紀さんは、結婚してすぐ工房に入った。
「基礎知識は持っていたので、やれそうなところから始め、段々と難しい仕事に幅を広げていった」と重信さん。
一反仕上げるまでに染色、糊つけなど7、8行程を経る作業に、由起さんもたずさわる。
由起さんが「岩清の染色のなかで代表する染料」と話すのは黒が一番強く、変色しにくいという榛の葉だ。採取は9月から10月。冬場は豪雪で入山できないため、大量に採って乾燥させたものを貯えておく。
昨年の新潟県中越地震で、被害を受けた工房の外壁材の染料に用いたのが榛の葉だ。草木染にした理由は家業のことや、十日町が着物の町であること、そして十日町のPRができればと夫妻で話し合った結果だった。
震災直後、工房を支える基礎部分が下がったうえ、窓上部分の土壁が崩れ落ち、屋根瓦もめちゃくちゃになった。土壁部分は重信さんが昨年12月から仕事の合間をぬい、合板を貼って修理した。そして5月中旬から約3カ月かけて、工房と隣接する自宅の外壁材となる約500枚の越後杉の板を一枚一枚染め上げた。
「黒くなるまで染めるのに、一度染めては天日干しという作業を最高で13回、平均12回繰り返した」と由起さん。途中、作業の大変さに何度もめげた。だがそれに耐えたのは、重信さんの妥協を許さぬ姿勢が大きかった。由起さんは「何がなんでもこの工房は自分たちで守るという思いだった」と話す。豊かな自然に溶け込んだ草木染の工房は、近所で評判を集めている。
現在、由起さんが取り組んでいるのが反物を使った韓服作りだ。「個人的に韓国、日本という壁を作りたくなかった。韓服を作るのも、紬の着物を作るのも、私にとっては一番いいバランスで仕事ができる」。そんな由起さんを温かい眼差しで見つめ、応援するのは一番の理解者である重信さんだ。
今月15日から19日まで、東京・南麻布の韓国文化院ギャラリーで開催するグループ展「韓日の文化を育んだ手しごと展」に、由起さんの韓服と重信さんの着物を出展する。「紬の岩清もしっかりやりながら韓服も沢山作っていきたい」という由起さんのチャレンジが始まっている。
「韓日の文化を育んだ手しごと展」は10時〜17時(最終日15時まで)。オープニングレセプションは初日16時から。入場無料。問い合わせは韓国文化院(℡03・5476・4971)。
(2005.11.9 民団新聞)