掲載日 : [2005-11-09] 照会数 : 9317
朝鮮通信使行列 実行委代表・江藤さんに聞く
[ 江藤 善章さん ]
韓日のゆかりを形に…「差別」直視から粘り強く
朝鮮通信使行列=「川越祭り・唐人揃い」の復活に奔走した高校の先生・江藤善章さんは、韓日の友好と相互理解のために尽力し、在日や外国人への偏見や差別とたたかってきた。通信使行列復活への思いを聞いた。
在日問題に直面
最初の赴任先は埼玉県立戸田高校だったのですが、そこは当時、隣接する東京・北区にある朝鮮高校生徒との抗争が日常化していました。日本人高校生と朝鮮学校生との抗争は、80年代前半くらいまで各地で続きましたが、私が就職したての72、73年頃は一番激しかったんじゃないかな。筒井監督の『パッチギ』という映画もその頃のことでしょう。
日本人生徒と朝鮮学校生徒との抗争は、日本社会の在日への偏見や差別意識、差別構造がその背景にあるわけで、当時は在日卒業生への就職差別も相当ひどかった。それで、それらの在日児童生徒への差別問題を直視しようと、教師になってすぐに「在日朝鮮人生徒の教育を考える会」を立ちあげたのです。すでに同様の会が東京にあったので、埼玉県でも大きな声を上げようと思いたったわけですね。
その後間もなく、79年9月に埼玉県で「上福岡三中事件」が発生しました。中学一年生だった在日の男子生徒が、マンション屋上から飛び降り自殺したのです。彼の父親は在日二世、母親は日本人で、マスコミは民族差別によるイジメが原因ではないかと報じていましたが、学校や教育委員会は「民族差別やイジメはなかった」と当初は言い張っていました。
ご両親や在日各団体、私たちのグループなどが真相糾明を求めてたたかい、彼は小学校6年生の頃から学内で激しい民族差別を受けていたという事実が判明したのです。その後の話し合いの結果、学校や市の教育委員会は報告書の不十分さを認め、学校側は指導のまずさを謝罪し謝罪文も公表しました。
事件発生から4年近く経った83年3月、上福岡市教育委員会は「在日外国人児童生徒にかかわる教育指針」を作りました。そこでは、我が国には民族的偏見や差別が存在していることを認識して、教育の過程で韓国・朝鮮の伝統や文化を学び、在日の児童生徒と日本人児童生徒の相互理解などを進めるということを述べています。
上福岡市のこの「教育指針」は当時としては画期的なものでしたが、あれから20年以上たっても、県内でこのような指針を持っているのはいまだに上福岡市だけなんです。最近、在日を取り巻く状況は良い方向へ向かっているとは思いますが、上福岡市の教育指針を県内全域に広めていくことは、今後に残された課題ですね。
韓日の歴史発掘
その後、私たちグループは「在日外国人の教育を考える会」と名称を変更して、県内にある日韓・日朝関係とかかわりの深い場所や事柄を掘り起こす作業を進めていきました。
埼玉県には有名な高麗神社をはじめとして、古代渡来人にかかわる史跡も数多く、中世、近世、近代に至るまで取り上げるべき素材がかなり多いのです。それらをまず91年に『埼玉と朝鮮』という本にまとめました。
その後、2002年にその改訂版として『埼玉とコリア』を作りました。これは韓国語の対訳付きで副教材としても活用していますが、これも県外からの問い合わせが多く、かなり評判がいいと自負しています。そういう作業の過程で、川越氷川神社に保存されている朝鮮通信使行列の絵馬などにも注目するようになっていったわけです。
そういう活動をしている一方で、朝鮮通信使が日本国内に残した足跡をたどって対馬まで歩いたり、海峡を渡って、秀吉軍が侵略した経路を自分の目で確認する作業を、夏休みなどを利用して少しずつ進めていました。最初に韓国に渡ったのは74年ですから、今の韓流ブームなんて全く想像もできないような状態でしたね。
ずっと川越氷川神社の朝鮮通信使行列の絵馬や絵巻は気になっていたのですが、今年は日韓両国にとってメモリアルな年でもあると正月に気がついて、朝鮮通信使行列を復活させてみようと仲間うちで思い立ったったのです。
それで、川越市や埼玉県の担当部署などに相談すると意外にもどこも好意的で、5月には開催が決定しました。後援して下さるところも決まり、なんとか実現までこぎつけました。パレード参加者を市民に呼びかけるとこれもかなりいい反応で、300人以上が参加することになりそうです。
キムチ作り実践
20年ほど前と比べても、韓国の国内事情はもちろん、日韓関係、在日を取り巻く状況などが本当に変わりましたね。在日を含めた国内の外国人への偏見や差別が全くなくなったとはとても言い難いけれども、昔から運動を続けていた者の実感として、事態はいい方向に向かっているんだとは言えると思います。
私が教えている学校の生徒会長は本名を名乗っている在日なんですよ。生徒に在日が多いわけではないんですが、学内にはチャンゴのクラブもあってほとんど日本人ばかりですが、活動は活発です。12月には学校中でキムチも作りますよ。その頃には、学校中がキムチのにおいで充満します。
外国文化の理解や、偏見とか差別構造とかはどういうものなのかということを、学校で掛け声や理念だけ言っていても始まらないんで、実際にいろいろと実践しちゃえば生徒は面白がって自発的にやるようになります。
人権教育も自然体です。クラスに保健委員がいるように人権委員がいて、先日、さいたま市の保育士採用で国籍条項が問題になったのですが、その件で生徒自ら全国の自治体に公務員採用の国籍条項がどの程度あるのか問い合わせ、さいたま市の後進性を客観的に指摘できるようになったということもありました。
そういう意味でも、朝鮮通信使行列も一度やってしまえばいい方向で続けられると思っています。とにかく、当日は雨が降らないことを祈るばかりです。せっかくの民族衣装ですから、秋晴れの下でパレードを楽しみたいですね。
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江藤 善章(えとう・よしあき)1949年・北九州市生まれ。早稲田大学教育学部卒、埼玉県立大宮北高等学校教諭。
「復活! 朝鮮通信使‐唐人揃い‐国際交流・多文化共生パレード」実行委員会・事務局団体「埼玉・コリア21」代表。
(2005.11.09 民団新聞)