掲載日 : [2005-11-30] 照会数 : 9496
<歴史資料館開館>金容雲氏の記念講演
[ 金容雲氏 ]
しっかり生きよう在日同胞
「恨」を生命力に…家族の絆を信じ合って
「在日韓人歴史資料館」のオープニングセレモニーが23日、東京・南麻布の韓国中央会館で開かれ、金容雲・漢陽大学校名誉教授(日韓文化交流会議委員長)による記念講演「韓日の理解と可能性」が行われた。多岐にわたる講演の中で、在日同胞に直接かかわる部分について抄録した。(文責・編集部)
果敢に飛び込む心
近代以前、中央集権の律令体制であった韓国と幕藩体制だった日本では、教育内容にも自ずと大きな違いがあった。
当時、日本人のいう「賢い」というのは、中国のいう賢人の賢いではなく、「畏(かしこ)まる」という意味だった。自分の分を知り、人に迷惑をかけず自分の仕事だけを一生懸命するのが賢いとされていた。
一方の韓国人は、日本人とは異なり自ら悩んだ末、必要とあらば渦中に飛び込んでいく、すなわち「誰にも頼らずしっかり者になって生きろ」という教育を受けてきた。
このことは、韓国で「抗日の英雄」と言われている安重根と、明治を代表する政治家で1909年10月、ハルビン駅で安重根に射殺された伊藤博文の異なる世界観に、典型的に見ることができる。
伊藤博文は、日本の評価では「明治期の偉大な政治家」ではあったが、果たして人類の文明史的な視野があっただろうか。彼は搾取をこととする帝国主義者であり、無謀に突き進む日本の方向性を固めた人物だ。しかし、安重根は囚われの身になっても人類の大義を考え、アジアの文明共同体、あるいは危険な地域における永世中立など、現代に通じる普遍的な哲学を捨てなかった。
北極星を見失わず
韓国人は植民地時代に苦しめられても、何とか生き延びて教育の機会を自らつかみ世の中に出た。「恨」の世界は身世打鈴ではなく、新しい生命体を与えてくれた。それが今の韓国人の持っている高い教育だ。
韓国人のいう「かしこ」をもう少し具体的に表したのが、韓国のテレビドラマ「冬のソナタ」で人気になった台詞「ポラリス(北極星)を見失わないで」だ。ポラリスは天球の北極の近くにあり、北極の位置を測定するための固定点となっている。この台詞の意味するところは、「私を信じて生きなさい」、「自分たちを信じて生きていけばそれでいい」ということにつきる。
1997年、経済破綻に直面し、国際通貨基金(IMF)の管理下に置かれた韓国で、雇用主から解雇された人たちが続出したときに流行った歌がある。そのなかの「お父さん、元気出してよ。私がいるじゃない」という歌詞は、韓国人が最後のより所とする家族の気持ちを象徴するもので、どんなに困難な状況に置かれても自分たちを信じて、前を向いて生きなさいという精神性を表している。「ポラリスを見失わないで」の台詞同様、人と人との強固なつながりを示すものだ。
在日よ国際人たれ
この家族の絆によって、またお互いの信頼によって解放後、在日同胞社会は支えられたと思う。在日の人たちは在日以外に直接、信じられる仲間はいない。だからこそしっかり者になって、これまで生きてきた。韓国人の培ってきた「かしこ」精神は在日にも受け継がれてきたことは間違いないだろう。
いま一つ重要なのは、在日は国際人として生まれていることだ。国民国家よりも、政権・政府よりも、また民族よりも、自らの共同体というものに私たちは関心を持っていくべきだ。在日はまさしくそう生きてきたのであり、それこそが在日の生き方でないか。
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金容雲(キム・ヨンウン)
1927年東京生まれ。早稲田大学在学中に解放を迎えた韓国に帰国。東京大学客員教授、漢陽大大学院長など歴任。現在、韓国数学文化研究所運営、韓日文化交流会議座長。著書は「日韓民族の原型」「日本人と韓国人」(サイマル出版)、「韓国・中国・日本の歴史と文化」(韓国の出版社)、「21世紀アジアの突破口」(徳間書店)など多数。
(2005.11.30 民団新聞)