掲載日 : [2005-12-07] 照会数 : 9389
とっておき韓日通訳秘話《9》崔銀珠さん(下)
主催者の意識改革急務…通訳任せでは無責任
日本と韓国の通訳を取り巻くマーケットの状況について振り返ってみる。韓国でのことだが、総体的に力量の劣る通訳者に対して聴衆(クライアント)がクレームをつけ、ブースから出るよう、壇上から降りるよう求めたことが何度もあった(日本ではなかなか見られない光景かも)。韓国マーケットにおけるこうしたストレートでシビアな要求は、通訳の質的向上を図る上で大いに役立って来たことだろう。聴く側の高い要求によってマーケットが成熟し、通訳が育つのであれば、それはそれで是とすべきだろう。
他方、通訳を依頼する側の意識はどうだっただろうか。
国家の利益に関わる、高い専門性が求められる政府間協議の場に、さほど経験も持たず、訓練も積んでいない現地法人の社員や留学生を送り込み、交渉そのものを頓挫させてしまったことが一度や二度ではなかった。目先の経費削減に惑わされて莫大な損失を招いた愚の骨頂といえよう。また、通訳能力は二の次で、身長〇〇㌢以上、顔は〇〇さんタイプなどと「容姿」を指定してきたこともあり、若干の経歴の違いなら女は若くて綺麗な方が良いと公言して憚らない担当者もいた。セクハラ意識の高まっている今のご時世、にわかには信じ難いかもしれないが、社会に蔓延する男尊女卑の意識の一端が垣間見えたものだ。
今でこそ幾らか改善されたと言えるものの、このように通訳者に対する社会の認識はすこぶるお粗末な場合が多かったように思う。
通訳を介して行われる会議、シンポジウム、フォーラムなどを成功させる第一の条件として、主催者、発題者、通訳の三者が「三位一体」を成す必要があるとされている。主催側の綿密な事前準備、要領よく明快な発言、的確で分かりやすい通訳という三拍子が揃わないといけないというわけだ。ところが、これまでのマーケットの状況は、準備は手薄、発言は猛スピードで要領を得なくても「通訳の力量で何とかカバーしろ」の一点張りだったような気がする。多くの通訳者たちによる、ひとり孤独な闘いの連続だったのだ。
韓日国交40周年を機に皆さま!通訳の上手な活かし方について、どうぞご一考のほどを!
=おわり
(2005.12.7 民団新聞)