掲載日 : [2005-12-21] 照会数 : 7996
在宅ケアの担い手奮闘 東京・荒川の同胞歯科医
[ 柳医師(右)とペアを組む歯科衛生士。手前は訪問用の医療機器 ]
歯の治療から口腔衛生指導まで
在日3世の歯科医、柳徹之輔さん(45)=町屋くま歯科医院院長、東京・荒川区東尾久=は、在宅ケアの担い手だ。診療に通えない寝たきり老人などのため、訪問診療に取り組む。採算ベースからいえば割に合わないが、患者からの感謝の言葉を支えに、関東近郊まで足を延ばす。在日社会にもなにか貢献できたらと、意欲を燃やしている。
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要介護老人対象に
柳医師は8月に医院を開業以来、診療の軸足を訪問診療に置いてきた。午前中は外来患者を、午後からはほぼ毎日のように一般家庭はもとよりデイサービス施設、特別養護老人ホーム、病院などを回る毎日だ。
柳さんは診療にあたって歯科衛生士と一緒に訪問する。ペアを組むことで、誤燕(ごえん)や燕下(えんげ)障害による肺炎などを予防する口腔衛生やリハビリ法も指導できるからだ。口腔状態に合わせた食事法の提案はケアマネージャーにも喜ばれている。一般の開業医がここまで手厚い在宅診療に関わるのは珍しいことだ。
持参する医療機器は30㌔余り。ずしりと重い。これを持ってアパートの階段を昇り降りするのは、かなりきつそうだ。柳さんは「体力勝負」と笑う。地元の荒川、台東区から始めたが、口コミで評判が広がり、いまは世田谷区からも引き合いがある。法の規制があり、回れるのは半径16㌔以内だが、埼玉なら戸田市、千葉県も松戸市までが守備範囲だ。
高齢化が進行するなか、「在宅ケア」の重要性が叫ばれて久しい。しかし、訪問歯科診療に取り組む医師は、全国的にも少ない。荒川区では柳医師を含め、数えるほど。これは思いを入れてやるほどに、厳しい経営環境となって跳ね返ってくるからだ。
柳さんは、1日に訪問できるのは3〜5件がせいぜいという。診療報酬からすれば「ボランティア」といえなくもない。生活困窮家庭では治療費を請求できないこともしばしばだ。
柳さんは東京・台東区生まれ。同胞多住地区の荒川・三河島周辺には多くの親戚が住む。学生時代にはハルモニが入れ歯の不具合に悩んでいるのを見た。なんとかしてあげたいといろいろ試みたが、満足のいく調整はできなかった。これが原体験となり、入れ歯の勉強にはことさら力を入れてきたという。歯科医師免許取得後も13年間、勤務医として経験を積んできた。そうしたなか、生活の現場でその人にあった治療と口腔衛生の指導ができる訪問診療が必要と考えるようになった。
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在日社会にも貢献を
柳さんは都内の民団支部会館を回って、「ボランティアで同胞お年寄りのための検診サービスをしたい」と意欲を燃やしている。身体機能が衰えていたり、口の回りの筋肉が麻痺して食事がうまくとれないようなお年寄りには、症状に合わせた食事法を提案できるという。正しいブラッシング指導で口臭の原因となる汚れを取り除き、入れ歯の不具合があれば、相談にものる。
先日はデイサービスの行われている民団足立支部会館を訪問して趣旨を説明した。介護スタッフからは好反応を得たという。
柳さんは「1世世代がいつまでも元気にデイサービスに通えるようにしたい。私のハラボジ、ハルモニはもう亡くなりましたが、自分のハラボジ、ハルモニだと思って親孝行したい」と話す。
問い合わせは町屋くま歯科医院(℡・FAX03・3893・5544)まで。ちなみに「くま(熊)」は柳さんの愛称。
(2005.12.21 民団新聞)