掲載日 : [2006-02-01] 照会数 : 11962
<民論団論>歴史認識の違いを超えて
民団鳥取県本部団長・薛幸夫
「竹島の日」条例 制定1年を前に
島根県が「竹島の日」条例を制定してから22日でちょうど1周年。今年も独島の領有権をめぐって韓日間で不毛な論争が繰り返されることが心配されている。こうしたなか、薜幸夫民団鳥取県本部団長は、国家の枠組みを超えた地方からの心の交流こそいま求められていると呼びかけ、それこそが在日の責務と説く。薜団長は昨年、鳥取県・市と姉妹関係にある韓国の自治体を訪問し、ギクシャクした関係の修復に努めた。
昨年は韓日友情年ということで、官民あげての交流行事が目白押しでした。私たち民団としても晴れの喜ばしき日々への協力を心に銘じておりました。
ところが、年初から島根県議会が「竹島の日条例」を制定するに至って雲行きがおかしくなり、その後も、中学校歴史教科書の採択問題、小泉首相による靖国参拝など、結果的には民団として予想に反した対応を迫られました。それは、民団、なかんずく在日の立つ位置、スタンスについて今一度考えさせられる契機ともなりました。
韓日関係は在日と直結
民団とは、当然のことながら、在日同胞が幸せで、文化的な生活を送るためにお互いに助け合う組織ではあります。もう一つ、韓日の間にあって両国のより良き理解のための介添え役という役割を持っております。
なぜかと申しますと、韓日関係が悪化することは、われわれ在日の存在自体に幸せをもたらさないからです。韓日が仲良くしてはじめてわれわれも幸せになります。
そういう意味で、私自身、昨年は忙殺されました。つまり、韓日交流、国際交流ということですが、その忙中に感じましたのは異文化理解、多文化理解は難しいなということです。あたりまえのことですが、お互い違った国同士であり、文化は異なっています。同質ではありません。前提として、基本的に分かっていないというリスクを負っております。
韓国では新年のあいさつが、「セヘポンマニパドゥセヨ」です。逐語訳をしますと、「新しい年の福を、幸福をたくさんもらいましょう」となります。いかにも韓国らしい直接的で具体的な表現です。これに対して、日本では「新年明けましておめでとう」と言います。「まずは新年を皆で慶びましょう」という抽象的な言い回しは、韓国とは大違いです。
言葉の背景と文化が違えば、交流にあたって大変なリスクをが伴うことを、われわれは肝に銘じなければなりません。例えばの話が、外国の見知らぬ土地へ行って日本語で「こんにちは」と呼びかけたために突然、頭を叩かれることもありうるのです。
異質前提に国際交流を
オーストラリアを訪ねた日本人が、現地の人に「これなあに」と聞きました。このとき、現地の人々から返ってきた答えは、「カンガルー」だったそうです。こう答えたのは、おそらくアボリジニーの人々だったとみられます。じつはこの「カンガルー」には、「わかんねえ」の意味が込められていたのです。では、韓国人に日本語で「これなあに」と聞いたとします。おそらく、「鯨が空を飛ぶか」と言うはずです。
これらの話は冗談ではありません。後で留学生諸君に聞いてみてください。まず、国際交流にあたっては、異質であるから分からないという前提に立たなければならないということを申し上げたいのです。
地方から心の交流を
韓日の間には伝統的に言葉や文化、そして、ものの考え方が違うということのうえに近代150年ほどの不幸な歴史があり、その歴史事実に対しても認識の違いが絡んできます。
私は、異なった認識を前提として、平行線のままではない、多様な回路やチャンネルの「場」を提供することが在日の立つ位置であり、近代になって国家が引いた国境という固いバリヤーや殻を浸透圧の高い融適無碍な、地域の人々がもっと楽に交流できる柔らかい皮膜に換えてゆくことが、その在日という特異な存在に課せられた使命だと思います。
たとえば、キムチ一つを例にとってみても、コロンブスが大航海を経てあの唐辛子を米大陸から持ってこなければ、あの味は出てきません。モノがそうでありますように人々も何千年、何万年にわたって混ざって交流しております。
韓・中・日 同じアジア
モノも人もチャンポンです。ましてや東アジア交流は、地球の裏側に回るような大航海は必要ありません。この韓・中・日のつながりに表層の言葉や文化を超えたもっと深い部分でのアジアの共通の心情、心を感じるのは、鳥取において20年近い交流に携わってきたわれわれにはわかります。
さればこそ、地方からの国家を超えた心の交流を発信し続けることこそひいては、世界の平和に至る在日の責務ではないかと愚考しております。口はばったいことを申しましたが、「竹島の日」は今年、またやってきます。ひるまずに、皆さんと共に交流の場を維持してゆきたいと思います。
(2006.2.1 民団新聞)