掲載日 : [2006-02-01] 照会数 : 10430
家主の不法行為一部認定 尼崎入居差別裁判
[ 「一部勝訴」と「不当判決」2つの表示が交差するなか複雑な表情で裁判所を後にする李さん夫妻(右) ]
「許容限度超える」 業者の責任は問わず
【兵庫】尼崎市内の不動産会社で韓国籍を理由に入居を断られた在日韓国人3世夫妻が、法の下の平等を保障した日本国憲法などに違反するとして家主と不動産仲介業者の双方に慰謝料の支払いなどを求めていた訴訟で、神戸地裁尼崎支部は1月24日、家主の不法行為を一部認めた。ただし、仲介業者の責任は問わなかった。
■□
訴えていたのは尼崎市在住の李俊熙さん(29)=団体職員=と妻の朴絢子さん(29)。夫妻は結婚を間近に控えた03年10月、市内の不動産会社で希望物件を見つけ、入居者名簿に必要事項を記入した。仲介業者からは「入居の可否は家主が直接判断する」と言われていたので、家主が来るのを待っていた。
間もなくやってきた家主は、申込書の本籍欄を見るや「うわー韓国の人かー」「前に韓国の人に貸して塀とか柱を青やピンクに塗られてリフォームするのに大変やった」と不快感を露わにした。その日の夕方には仲介業者を通じ、外国籍を理由に契約を断ってきた。裁判になって家主は、「夫妻が猫2匹の飼育を希望していたので断った」のだと自らの入居拒否を正当化した。
小松裁判長は「家主は韓国籍を入居拒否の理由にしており、社会的に許容しうる限度を超えた不法行為にあたる」と認定した。ただし、「猫を飼うことで家屋の損傷がある」という家主の主張も入れ、精神的苦痛にともなう慰謝料は原告の要求する各100万円を10分の1に減額、このほかの弁護士費用と合わせても損害賠償額は計22万円を認めたにすぎなかった。
家主の代理人は「猫以外に断った理由はない」と、判決内容に不満を表明した。しかし、李さんは「韓国籍であることも猫を飼うことも契約する以前から仲介業者に言ってある」としており、双方の主張は食い違う。
李夫妻の代理人、原田紀敏弁護士は「今回の裁判は仲介業者の責任がどこまで問われるのかが争点だった。仲介業者は家主の不当差別をいさめるなど、説得しなければならない立場。その責任を果たさず、家主の違法行為に加担すれば、仲介業者も責任を問われなければならない」と述べた。
■□
国籍差別に踏み込まず 神戸地裁尼崎支部判決
判決は、原告側の主張する国籍差別の事実を一部認めつつ、家主の「拒否の理由は猫の飼育」という反論にも配慮した「けんか両成敗」を思わせる中途半端な判決となった。原告側にすれば「一部勝訴」ではなく、「不当判決」というのが正直なところだろう。
仲介業者は原告が韓国籍であること、猫の飼育という条件を承知で問題の物件を提示した。賃貸人と仲介業者の力関係からすれば、家主も了解済みと考えられる。過去、韓国人に貸した実績があるからだ。
それでも家主が入居拒否したのは以前、韓国人の借家人が退去するに際して予想外のリフォーム費用を強いられたため。にもかかわらず「猫の飼育で壁・畳などにひっかき傷ができたり、尿などの臭いがついたりして退去の際、リフォームやその費用で紛争が生じるのを嫌った」と、国籍拒否をあえて隠ぺいした疑いが強い。「入居申込書の本籍欄を見てのけぞった事実はない」というのも不自然だ。「家主は猫をかぶっている」と揶揄されても仕方がないだろう。
判決は「猫の飼育を理由に賃貸契約の締結を拒否することは許される」としたため、結果的に本来の争点である国籍差別の責任追及があいまいになってしまった。
昨年12月、同様の裁判を大阪地裁に起こした康由美弁護士は「通常、差別した側は、後になって必ず違う理由を付けて差別したのではない、誤解だと言ってくる。今回の判決は、そういった差別する側の言い分に乗った極めて問題のある判決だと思う」と話している。
(2006.2.1 民団新聞)