掲載日 : [2006-02-15] 照会数 : 10878
<民論民団>入居拒否裁判はいま
[ 第1回口頭弁論に韓服で臨んだ康さん ]
大阪地裁原告 康由美(弁護士)
「差別は悪」 共通認識の確立急ぐ
「すみません。外国籍の方はお断りしたいそうです」。2005年1月15日、大阪市北区の某大手不動産仲介業者の店長は、ある物件に入居を希望していた私にこう家主の言葉を伝えた。私は、17年前、大学院生の頃にも同様の入居差別にあっている。日本社会の差別意識は、今なお根深いことを痛感した。
その後の話し合いの中で、家主は、入居を断った理由は国籍ではなく、ファミリーでの入居でないためだと主張した。家主と直接電話で話した仲介業者が、「入居を断った理由は、国籍でした」と明確に述べているにもかかわらず、である。
かつては、「朝鮮人お断り」と堂々と張り紙をしている不動産業者も少なくなかった。さすがに現在は、そこまであからさまな差別は見かけなくなったが、この家主のように、後になって違う理由をつけて、差別を正当化することが多くなっている。
今年1月24日、兵庫県尼崎市在住の在日韓国人3世の夫婦が起こした入居拒否裁判の第一審判決が出た。夫婦が入居申込書を書いていたとき、「うわ〜、韓国かぁ」と述べた家主は、裁判では、当該夫婦が猫を飼っているので入居を断ったのだと主張した。判決では、明確に、国籍や民族を理由とする入居拒否は、憲法違反であると明言している。
しかし、「猫の飼育」が入居拒否の主な理由であったとして、慰謝料はかなり低額の22万円にすぎなかったし、家主に同調した不動産仲介業者の責任は認めなかった。
裁判では、相手方が「差別的言動をしたのか否か」が、焦点になる。そして、現在の法体系では、差別を受けたと主張する原告側が「差別的言動があったこと」を立証し、裁判官を納得させなければならない。録音テープやビデオテープでもあれば強力な証拠になるだろうが、差別的言動があったまさにその時に、これを記録するというのは、事実上不可能である。
また、尼崎の事件のように、不動産仲介業者が家主の主張に沿うような主張をする場合、たとえ現場に第三者がいたからといって、必ずしもこちら側の「証人」になるとは限らない。
このように今の裁判制度では、立証の困難さ、慰謝料が低額であること、今後の差別抑制になりにくいなど、救済の実効性に乏しい。さらに、裁判を通じて相手の差別意識を払拭することは至難の業である。そのため、こうした差別事件においては、原告が「差別があったこと」を立証するのではなく、訴えられた被告が、「差別的言動がなかったこと」を立証しない限り、差別的言動があったものだと認定できるような法律が必要だとして、差別禁止立法制定の運動も起きている。そして、何よりも重要なのは、裁判を起こさなければならなくなる前に、何らかの救済手段が確保されていることだ。
では、差別禁止法も、制度的救済も不十分な今の状況での裁判は、どのような意味があるのか。
差別意識を具体的に発露すれば、社会的に非難をあび、法的に罰せられるのだという認識が広がることが差別の抑制になる。裁判の過程でできることは、社会にこれほど差別が蔓延し、放置されたままであることを明らかにすることである。
そして、これらの裁判に対する社会の関心、共感が、まさに差別に対する社会的非難となるのである。そのため、私は、昨年11月17日、家主と大阪市を相手取り、裁判を起こしたのだ。
どうか、これらの裁判に関心を持っていただき、ご支援をお願い致します。
(2006.2.15 民団新聞)