掲載日 : [2006-03-29] 照会数 : 12566
韓国スポーツ、強さの秘訣は…慎武宏さん
[ 慎武宏さん(スポーツライター) ]
<寄稿>韓国スポーツ 強さの秘訣は…
キムチパワーに革新性プラス愛国心
コリアンパワーの躍進がめざましい。歴代最多11個のメダルを獲得して総合7位をマークしたトリノ五輪。フィギュアスケート世界ジュニア選手権を制した金妍兒の華麗な滑り。そして、韓国野球の底力を示したWBCベスト4進出。まさに世界が韓国の躍進に驚愕しているが、その強さの秘密はどこにあるのだろうか。
一般的に言われるのは、キムチパワー、英才教育、兵役免除などだ。確かに、韓国の食卓に欠かせないキムチはミネラルや乳酸菌などの栄養分が豊富だし、韓国スポーツ界の少数精鋭の英才教育は有名だ。金妍兒も7歳の頃からフィギュアスケートを始めたという。
トリノ五輪のショートトラック4種目のうち、3種目で金メダルに輝いた韓国の強さの秘密は、ショートトラックがテスト種目として取り入れられた88年カルガリー冬季五輪時からその競技特性に着目して、早い段階からスピードスケートの成長株をスカウトし強化してきた成果だ。
成人男子の義務とはいえ、選手として脂の乗った時期に約2年2カ月の兵役に従事することになれば、そのブランクで技術や体力が錆びつき、選手生命を縮めることにも繋がりかねないだけに、五輪を筆頭とする各種世界選手権などで好成績を残せば得られる兵役免除という名のニンジンも、選手たちの強い動機づけになっていると言えるだろう。
だが、これらは以前から語られてきた紋切り型の一般論であって、さらに探っていくと韓国スポーツ界の変化も見えてくる。
例えば韓国ショートトラック界はコーナーベルト訓練(ゴムベルトを腰に巻いてコーナリングでのスピードとバランス感覚を磨く技術)という独自のトレーニングを編み出した。
今季からシニアに本格参戦し10年バンクーバー冬季五輪でのメダル獲得が期待される金妍兒には、韓国スケート連盟のバックアップで専任の外国人コーチをつける計画もあるし、WBCでの韓国快進撃を陰で支えたのは、プロ球団スカウトたちの緻密な情報分析でもあった。かつてのような根性主義に依存しない、合理的かつ科学的なアプローチも、韓国躍進の背景にあるわけだ。
しかし、その躍進を語るには、韓国選手たちの意識と自覚を語らずにはいられない。
象徴的なのがWBCだ。日本やアメリカができなかった〞史上最強軍団〟を、なぜ、韓国は結成できたのか。それは韓国のスポーツ観とも無関係ではない。
というのも、もともと韓国人は、スポーツの国際大会になるとそこに強い愛国心を投影させる傾向がある。街中が赤く染まった02年サッカーW杯はいい例だろう。そんな韓国人が、〞野球世界一決定戦〟と銘打たれたWBCに、熱き血を滾らせないわけがない。
大会開催が決まって以来、ファンやメディアの間では〞史上最強チーム〟結成への期待が高まり、選手の口からも参戦表明が相次いだ。国民が強い関心を示す国際大会で国を背負って戦う名誉は万国共通だが、韓国では代表選手のステイタスが一際高いだけに、選手たちもWBCに強い意欲を示したわけだ。
つまり、ファンも選手たちも、「韓国対世界」という対立構図をしっかり持って戦い、声援を送っていた。
ともすれば、やや行き過ぎた面もあるそのナショナリズムは、ときに負担や足かせになったりすることもあるが、選手たちにとってはその使命感が発奮への原動力になっていた。すでに富と名声の両方を手にした朴賛浩や李承が、大会期間中に「国のため、韓国球界ために」という覚悟を連発していたのは、その象徴だったような気がする。
伝統と革新、そしてその両方を支える愛国心が韓国の強さだ。
今度は6月。ドイツサッカーW杯でコリアンパワーが炸裂することを期待したい。
(2006.3.29 民団新聞)