「外国人狩り」の様相 日本人誤認逮捕も必然的
埼玉県川口市で交番の前を通りかかった28歳の日本人女性が警察署に逮捕されるという事件が起きた。警察によれば、職務質問に対する彼女の返事が不適当だと判断し、逮捕したという。事件が起きたのは今年2月27日、夜7時40分ごろのこと。新聞報道によると彼女は東南アジア系の顔立ちだったようだ。(近年、警察官にとって東南アジアの人は『盗難アジア』となりつつあるようだ)。手にはポルトガル語の出版物を手にしていた。
警察官が「国籍は?」と職務質問すると、彼女は「日本人です」と答えた。「じゃ、パスポートを見せろ」となった。だが、「パスポート」は外国人登録証と違って、常時携帯する性格のものではない。旅券を要求するのは不法行為だ。
職務質問もおかしい。警察官職務執行法によれば、「(前略)何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしている疑うに足りる相当な理由がある者(中略)認められる者を停止させて質問することができる」とあるからだ。
では、彼女には「相当な理由」があったのか。東南アジアっぽい顔をして、外国語の出版物を手に交番の前を通りかかったからといって「相当な理由」にはならない。日本人にこうやって職務質問をすることそのものが違法行為にあたる。
不幸にも彼女は自らが「日本人」であるとの証明が十分できなかった。国籍不明のまま出入国管理法違反の容疑で逮捕されてしまった。家族と連絡がつき、釈放されたのは逮捕から24時間後のことだった。
警察署は「当事者の方には大変ご迷惑をおかけした。今後、指導を徹底し、再発防止に努める」と謝った。しかしこうした誤認逮捕はまだまだ続くだろう。なぜなら警察庁はテロ対策を口実にした「外国人狩り」を行いつつあるからだ。
99年の初頭、警察庁は「国際化対策委員会」を創設、排外主義的なキャンペーンを展開した。00年には石原都知事によるいわゆる「三国人発言」が飛び出した。その後も警察庁は「外国人犯罪」に関するコンピュータ・ファイルを半年毎に更新し、広く「外国人犯罪」の恐怖を煽っている。
地方の警察署、入国管理局はもっと念入りだ。入国管理局、および福岡警察署は「不法滞在外国人情報受付」のウェブサイトを設置し、匿名で通報を受け付けている。静岡県警察署に至っては「来日外国人犯罪の特徴」なる文書を作成して県内各家庭に配布した。
科学警察研究所は「外国人犯罪生体試料究明施策」を実施し、外国人の「民族的DNAの指標」を研究するようになった。02年のサッカーワールドカップの際には「反フーリガン対策」をとった。これからも「反テロ措置」を理由に「外国人ターゲティング」に取り組んでいくことだろう。
なかでも逆戻りだと感じるのは、入国管理局の新政策だ。これから新規に入国する外国人については指紋採取を復活し、「IC外人カード」制度を作る予定である。せっかく民団をはじめとする特別永住者らの永年の運動で指紋取得制度が廃止されたというのにだ。
だから、私は2月に起きた埼玉県での不法逮捕は別に驚いていない。外見や雰囲気のみで「外国人の疑い」をかけ、職務質問や警察への任意同行となるのは必然的な成り行きだと思うからだ。
次には何が起きるのだろうか。私は外国人嫌悪や排外主義が日本社会にさらに蔓延することに強い危機感を感じている。
■□
プロフィール
有道出人(あるどう・でびと)。65年、米・カリフォルニア州生まれ。コーネル大学政治学学士取得。91年、カリフォルニア大学サンディエゴ校商学修士(MBA)取得。86年来日、00年に日本国籍取得。93年から北海道情報大学教員。主な著書に『ジャパニーズ・オンリー(小樽温泉入浴拒否問題と人種差別)』(明石書店)。
関連サイトは次のとおり
◎
http://www.immi-moj.go.jp/zyouhou/index.html
◎
http://www.debito.org/TheCommunity/shizuokakeisatsuhandbook.html
◎
http://www.debito.org/NPAracialprofiling.html#nihongo
(2006.4.5 民団新聞)