掲載日 : [2006-05-24] 照会数 : 5557
指紋採取に異議 問題だらけの改正入管法
水上洋一郎(元東京入国管理局長)
外国人を犯罪者視 共生時代にマイナス
入管法の改正案が5月17日、ほとんどマスコミや国民レベルでの議論がないまま参議院本会議を通過し、成立した。改正点は外国人から入国の際に顔写真を撮り、指紋を取ることなどであるが、指紋採取には多くの問題がある。
改正の主目的は海外からのテロの未然防止であるが、日本には海外テロリストについての独自の情報はほとんどない。特に指紋情報はそうである。指紋情報がないのにどのようにして採取した指紋と照合するのか。
他方、政府はテロ防止とともに犯罪防止を強調する。「日本は不法入国者が多い」「不法滞在外国人の増加、それを温床とする外国人犯罪の激増」などという。結局、改正の主眼は指紋情報を捜査機関に提供できるようにするためのものといわざるをえない。
確かに、入国管理局には既に7〜80万人の被退去強制者の指紋を保有しているので、かつて退去させられた者が偽造旅券などで他人になりすまして入国する場合には非常に有効である。だが、何十年にわたり蓄積された7〜80万人のリストのうち何人がいったいリピーターなのか。出入国管理で指紋が役に立つのはこの程度である。やはり、問題は犯罪者や容疑者でもない外国人(特別永住者、16歳未満の者を除く)年間700万人ほどから指紋を取ることにある。プライバシー権の侵害、品位を傷つけるという問題である。外国人登録上の指紋は数十年かけて全廃したが、その指紋も捜査に使用しないことを大原則としてきた。
では、果たして外国人犯罪の実態は何なのか。①1200万人といわれるアメリカの不法入国者は別として、人口規模からみて、隣の韓国や西欧諸国と比べて不法滞在者は多くはない。むしろ、先進国では少ないほうである②不法滞在は必ずしも犯罪の温床ではない。正規入国のスリ団などもいる。犯罪学的に検証してほしい③不法滞在外国人の半減を目指して警察と入管が摘発に力を集中すれば検挙数が上がるのは当然で、それを一般的に外国人犯罪の激増といってよいのか。外国人犯罪については不法残留罪等外国人固有の犯罪があり、これを考慮にいれながら日本社会における犯罪現象とも比較しながら冷静に判断すべきだ。
日本は今や、少子・高齢社会を迎え人口減に突入する中で、外国人受け入れが本格的な課題となり、外国人との真の交流、共生が求められている。このようなときに外国人を犯罪者視しかねない傾向を助長する指紋採取はマイナスである。日系人を含め、在留外国人の9割はアジア人であることに留意してほしい。予算や人員は限られているので、新たな業務は入管の窓口に影響を及ぼし、サービス低下を招きかねない。
テロ対策は本道を行こう。日本の海外情報収集能力は弱く、ほとんど米国頼り。日本独自の、日本を標的とするテロ情報の開発をすべきである。また、真に指紋が必要なら国民にも課すのが筋である。((財)財日韓文化交流協会理事長)
(2006.5.24 民団新聞)