掲載日 : [2006-05-24] 照会数 : 9248
<論点>福祉、教育など今後の課題 梁東洙
編集主幹・梁東洙
韓国民団と朝鮮総連との代表団会議の会談の雰囲気を、民団側の唯一の随行記者として臨場感ある報道ができたかどうか、河丙団長の「涙が出るほどうれしい。おびただしい数の地方からの激励電話があった」などの発言を記述できなかったことなど気になるところです。
再活性化が目的
しかし両代表の握手と代表団の笑顔が心の底から出たものであったと思われ、またそうであってほしいと願わずにいられませんでした。この日が新しい出発の日であり、また長く続いた政治的対決に終止符を打った日であり、その結果を受けて我々は自らの課題に取り組むべきであると考え、意見を記します。
今回の訪問と会談の目的は、民団自体の生き残りと、再活性化をめざすものです。在日同胞2・3・4世代やニューカマーとも呼ばれる新定住者の組織離れをくい止め、広範囲の同胞を再結集させる契機とするものです。
お互いの政治的な考えにとらわれずに日常的な生活や楽しみを共有しようとするのは当たり前のことであって、こうした日常生活を共有し、協力していくには組織の対立的な思考は障害になってきました。
今回これを取り除き、同胞同士の交流、生活協力を活発化させその土台の上に民団組織を位置づけようとするものです。イメージとしては社会的大衆的な文化親睦親善団体に重点を移すと言えるのではないでしょうか。
取り組むべき課題の第1は、福祉・年金問題です。従来は福祉と言うと一部の恵まれない人たちに関わる問題との誤解もありましたが、いまではユニバーサル主義(誰に対しても関係のある問題)として認識し、子育て支援・老齢化・介護問題に組織をあげて取り組まなければならず、またこれには日本政府や地方自治体と協力関係を結び、要求し支援してもらわなければなりません。
福祉は皆の問題
年金問題では無年金者問題とともに年金格差の問題が深刻です。日本の論調では年金格差とは、共済年金と厚生年金との官民格差、厚生年金と国民年金との格差とを言っていますが、我々はもっと深刻です。国民年金は「国民」の名称により在日外国人は当初から排除されてきており、途中1982年から加入が認められたため、あたかも解決されたかのように喧(けん)伝されていますが、実態は異なります。
会社組織など一定の法人には厚生年金が適用されますが、自営業者・無業者などが加入するのが国民年金です。在日同胞の大半が加入し、加入できるのは国民年金です。厚生年金受給者と国民年金受給者とで受け取る金額は約2倍程度の差があるようですが、在日同胞はその少ない国民年金受給者の更に半分程度以下です。
これは生涯続きます。最初から制度上排除しておいて、後からは加入できるようにしたのに入らないのは自己責任だといった扱いです。これは違うのではないでしょうか。「在日を死ぬまで差別し続けるのか」−−この血のような叫びをどう受け止めるべきでしょうか。
こうした声を受けとめられるのは民団、総連の両団体をおいてほかになく、とりわけ民団が主導的に解決を模索しなければならないでしょう。
国籍変更は疑問
なお、日本国籍取得が年金問題等の解決であるかのように提唱する人もいるようです。しかしこれは間違いです。すでに発生している無年金・年金格差は国籍取得によっては解決しないものです。また今後加入する世代は国籍要件を必要とされていません。国籍に関係なく在日同胞の多くは今後20年間程格差に泣かされそうなのです。
そしてまたその期間は日本の年金危機と重なります。これには政策的・集団的に解決をめざすほかないのです。日本国籍取得者をふくむ100万在日同胞の人権、福祉、差別解消に関連諸団体、ボランティアの力を合わせる方向で取りかからねばなりません。
広い視野に立つ
課題の第2は民族教育機関の擁護と発展をめざすプランと実践です。民族教育機関においては母国語、歴史、文化,普通教科を学ぶとともに同世代の同胞と一定の期間同じ時間を共有する点において生涯大きな意義を持つものでしょう。次世代の同胞学生がどのような道を選択するかは彼ら自身の問題ですが、定住性を強めるなかで身を立てる学問、技術をどのように身につけさせていくのか、民族的教養をどう修得し生かしていくのかなどについてより一層の幅広い議論と協力関係の拡大が必要だと考えます。 他方、国際性の強化は時代の要請です。民族教育機関の出身者がさまざまな分野でいずれの日にか国際舞台で活躍できるように、語学を含む国際感覚や視野の拡大、広い教養をつけさせるのが彼らにとっても全体にとっても利益となるのではないでしょうか。今後の工夫と専門家・実践家の議論を期待したいと思います。
課題の第3は文化・芸術の振興です。我々のできることは、才能ある人々の発表機会を作ることや声援を送るなどに限られるかもしれません。しかし文化風土や土壌があれば、才能ある人々は必ずや自らを鍛え、磨き上げて登場してくるでしょう。多彩な文化・芸術の興隆は民族の誇りとなるものであり、期待したいものです。
課題の第4は人道主義的立場の貫徹です。人道的な問題にはさまざまな政治的思惑や主張とからませないことです。必要な人道的支援は実質的に行うべきであるという一言につきると考えます。
言論の活性化を
課題の第5は新聞・通信などの活性化です。さまざまな意見が飛び交い、討論、議論が生まれることは人々が活気づき、組織の発展につながるものです。民団新聞もその一部としてその役割を果たしたいと考えます。
どのような地位、立場にある方からもその意見、批判があればお聞きして紙面に反映させるつもりです。個人の悪口以外は全て歓迎です。
(2006.5.24 民団新聞)