掲載日 : [2006-08-15] 照会数 : 9923
美の追求で輝く在日同胞の女性たち 楊淑姫さん
楊淑姫さん(32)
フローリストオースリーズ オーナー
花のアレンジで美演出
店売り以外に結婚式用の装飾花は年間400件。企業のパーティー、顧客の注文などを含むと数えきれない。昨年9月、夫とともに東京・港区に生花店「フローリストオースリーズ」をオープンした。店頭に並ぶ四季折々の切り花や葉ものは50を超える。
楊さんが専念していると話すフラワーアレンジメントは、状況にあった花や資材を組み合わせて、飾る場所にふさわしい装飾花を作りあげる仕事だ。「つねに作る、作るという感じです」。例えば結婚式だけでもメーンテーブル、エントランス、受け付け、ブライダルブーケ、コサージュ、教会用など多岐にわたる。1件で30以上のアレンジをスタッフとともに手がける。
暮らしのなかに心のゆとりを与えてくれる花。祝いや記念日、ギフト用などで利用する場面は多く、客の花の良し悪しを見分ける目が高くなっている。「お客さまの要望は高い。毎回、真剣勝負です」。仕上げた作品は世に出て行く。だからこそ、どこに出しても恥ずかしくないデザインをしたいと思っている。
20歳で生花市場に就職。当時、やりたい仕事はまだ定まっていなかった。だが、フランスでフラワーアレンジメントの勉強をしていた人との出会いをきっかけに、休みの日を利用して実践で学んでいった。「いつのまにかのめり込んでいった。自然に花屋を持ちたいと思った」
27歳のとき、結婚を機に市場を退職。夫妻で同店の前身となるアトリエを構えた後、仕事の広がりを目指して現在の生花店を開いた。
「花の品質が一番の自慢」。店のモットーは「花を仕入れて3日経ったものは売らない」だ。一般の生花店のように、花の品質管理を行うための冷蔵庫は置いていない。「花は鮮度が大事。長持ちさせるのではなく、一番綺麗な状態で咲かせて売り切る」。市場での仕入れはもちろんのこと、最後まで咲かせてあげたいと、つねに花の状態を把握している。
現在は韓国籍だが、朝鮮大学卒業後、ずっと日本社会で働いてきた。「民族性も自分が何人とか考える機会もなかった」が3年前、在日のシンボルのようだった祖母の死をきっかけに、自分のアイデンティティー探しをしてきた。
店を構えた港区は多くの大使館が存在し、また韓国人も多数暮らしている。楊さんを在日とは知らずに大韓民国大使館、民団中央本部の関係者などが、たびたび店を訪れた。韓国人と知って喜んでくれた。技術の確かさとセンスも認められ、現在も依頼がきている。
「これまで仕事をするうえで名前をどうしたらいいか、自分のイメージをどう作ろうかといろいろ迷った。でも結局、在日は何人でもなく在日なんだというシンプルな答えを見つけた。韓国の方と会う機会が増えて、いろいろ回ってきたけれどまた戻ってきた感じ」
この街で自分自身と向き合うことができた。仕事を通じて一期一会の出会いを大切にしてきた。自分がそうであったように、「在日の後輩にもいろいろな世界を見せてあげたい」という。
花を扱うプロフェッショナルとして、また時代に乗り遅れないために、感性を磨く作業も怠らない。フラワーアレンジメントは「美を送り出す仕事。自分で惚れ込むような作品作りが基本」。限られた時間内での作業は最後まで緊張感を伴う。「でもその緊張感が好き」。夏が過ぎれば年明けまでノンストップで作業に取りかかる。
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営業時間11〜19時。年中無休。東京都港区麻布十番3‐5‐11(℡03・5444・5687)。
(2006.8.15 民団新聞)