掲載日 : [2006-08-15] 照会数 : 7605
民主党 中川正春議員に聞く
支援は人権回復の視点で
日本政府にも責任 民団と推進したい
きっかけはハンミ事件
脱北者問題に関わるようになったきっかけは、02年5月8日に北朝鮮を脱出したハンミちゃんの家族が、中国・瀋陽の日本総領事館に駆け込んだ事件だ。
民主党として総領事館の対応が正しかったのかどうか、中国の公安当局に「主権侵害があった」ということをきちんと言わなくてはならないということで、海江田万里議員とともに現地に派遣された。
その時、改めて脱北者が中国に20万から30万人潜伏しているという現実を知った。中国当局は脱北者を見つけたら北に強制送還し、強制送還されると収容所に送られ、拷問を受けるという。
そういう厳しい現状にどう対応していくか迫られているにもかかわらず、日本政府も周辺の国もきちんとした対応策をもっていないということに気づいた。
現地のNGO支援者などから、帰りに韓国に立ち寄り、脱北者を救援しているNGOの人たちにしっかり話を聞いてほしいと言われた。
日本の関心「拉致」だけ
ソウルで会ったNGOの人たちが一様に語ったのは、「日本が指摘するのは拉致だけではないか。拉致問題が北朝鮮との関係のすべてで、しかも2国間で解決を図ろうとしているではないか」ということだった。
さらに、本来、拉致と脱北者の問題に共通しているのは、個人の人権の救済、回復であり、どちらも運動していくべきなのに、日本の拉致被害者救援運動は、結果的に国と国との喧嘩になっているというのだ。
拉致された人たちの真相究明をはっきりさせていかなければならないのは大事だが、それぞれの人権ということを共通項にすれば、日本だけの問題ではなく、韓国にも拉致問題があるし、戦争中に離れ離れになった離散家族、行方不明者の問題もある。
また、北朝鮮の中で国民がどれほど苦しんでいるかという意味での人権問題、その中には在日の帰還運動で北朝鮮に渡り、苦しんだ末に脱北したケースもある。
人権という形でとらえることによって、韓国ともアメリカとも連携ができると、私自身が理解した。そういう観点での運動がなかったので、私が取り組もうということになった。そこが原点だ。
脱北者支援を盛り込んだ北朝鮮人権支援法が6月16日に成立した。これから具体的な作業に取りかかるが、2つの分野で整理をしなければならないと考えている。
一つは、海外特に中国の大使館、総領事館に逃げ込むケースに対して、どういう働きかけをするかということだ。脱北者の支援をしている職員は、NGOから連絡があったら中国との間で暗黙の了解のもとで救済をしてきたが、今後は国として法律に基づいた形で支援するというお墨付きを与えなければならない。個人的な思いだけでやるのではなく、支援活動が合法化されるという意味は大きい。
NPOとの協力不可欠
もう一つは、日本に帰ってきた脱北者をどう支援していくかだ。
帰ってきたばかりの人たちに、当座の住居と心のケアをしていく。そういう機会をどんどんつくる。それ以降の就職活動とか社会復帰していく過程では、民団の皆さんを中心にNGOの方々と協力しあいながら進めていきたい。
日本に戻って来た脱北者は、「帰還運動」で北に行ったかつての在日朝鮮人だ。「地上の楽園」という美辞麗句にだまされたとはいえ、責任は朝鮮総連だけではなく、日本赤十字、日本政府にもあるということを、日本が国家として認識しなくてはならない。
人権法案を議論し始めた頃、脱北者にまぎれてスパイが入って来るのではないかといった批判が、電話やFAXで数多く寄せられた。それらの批判を念頭に置きながらも、日本人に理解を求めたいのは、金正日という体制と北朝鮮の国民を区別して考えなくてはならないということだ。
金正日に対してはしっかり対峙していくが、国民はあの体制の犠牲者であるという考え方をもたないといけない。
民団の脱北者支援活動があったからこそ、脱北者の日本での暮らしのメドがついたと思っている。これからも私たちとともに支援活動に尽力してほしい。
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プロフィール
なかがわ・まさはる 1950年三重県生まれ。米国ジョージタウン大学国際関係学科卒。75年に国際交流基金(外務省特殊法人)に入社。96年の総選挙で初当選。現在4期目で、「北朝鮮難民と人道問題に関する民主党議員連盟」の会長を務める。
(2006.8.15 民団新聞)