掲載日 : [2006-08-22] 照会数 : 5207
徴用遺族 癒えぬ傷
[ 遺骨問題の解決を訴える金錦順さん(左)と李今壽さん ]
韓半島から強制動員され、犠牲となった遺骨の返還をめぐって、同胞・市民団体が人道的な対処を求める小泉首相にあてた要望書を11日、内閣府に提出した。応対した内閣官房副長官補室では、早ければ9月上旬にも厚生省や外務省などの担当者から直接回答する場を設けたいと約束した。同胞・市民団体に同行した遺族の涙の訴えが担当者の心を動かしたようだ。
まず生死確認を…「遺骨」で内閣府に要望
市民団体は要望書を通じて、遺骨の所在確認はもとより死亡に至った経緯、なぜ、遺骨が60年余りにわたって日本に残留したかなどの調査が急がれると申し入れた。黒のチマ・チョゴリ(喪服)に身を包んだ遺族も思いは同じだった。生死確認を含むあらゆる情報の公開を求めた。
金錦順さん(60)=水原市在住=の父、包徳さんは44年3月ごろ南洋群島マリアナ群島に強制徴用されたと見られるが、確かではない。錦順さんは「日本政府が生死情報を公開してくれないため父がこの日本の地で死んだのか、あるいはいまでも生きているのか、それすら分からない」といらだちを見せた。
李今壽さん(62)=ソウル市在住=も「大事なのは生死確認。生死確認さえできれば、遺骨は後からついてくる」と語った。今壽さんはまだ胎児のとき、父・鶴雨さんと生き別れた。鶴雨さんがソウル市内の煉瓦工場から徴用されたことは、祖父から聞かされた。亡くなった場所は未だに明らかになっていない。
市民団体の共同代表、上杉聡さんによれば、応対した内閣官房副長官補室の山田素子主査は涙ながらに遺族の訴えに耳を傾け、「担当してみてから、自分が遺族と同じ立場だったらどうだろうと思うようになった。文書回答ではなく、外務省と厚労省の各担当者から直接説明の場を持ちたい」と答えた。
曹洞宗人権擁護推進本部の西村喜候次長は「ただ遺骨を返せば済むという問題ではない。遺族は死亡に関するさまざまな情報を待ち望んでいる」と感想を語った。
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証言 李今壽さん
土だけでも
父がどこで亡くなったのかはいまだにわからない。もし見つかればその場所の土だけでも持ち帰り、母の墓に葬ってあげたい。父の遺骨を埋葬するのは母の遺言でもあった。父をきっと探し出してください。
父が徴用されたとき私は母のお腹の中にいた。物心ついて父がいないのに気がつき、「どうして私だけお父さんがいないの。お父さんを買ってきて」といって母を困らせた。母はどれだけ胸が痛かっただろうか。
大事なのは生死の確認だ。次が遺骨。生死確認できれば遺骨はついてくる。歴史を正し2つの国がともに手を携えていけるよう願う。
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証言 金錦順さん
生存信じて
父は最初、朝鮮のチョンジンに連れて行かれ、そこから逃げ帰ってきた。しかし、また村の巡査に連行された。
私のたった一つの願いは父の生存をこの目で確認し、手を取って「お父さん、お父さん」と呼んでみること。父がこの日本の地で死んだのか、今でも生きているのか、それすら分からない。
私たちのこの胸の痛みを理解してくれるのならば、父の生死記録の公開と遺骨の返還を一日も早く実現していただきたい。日本政府があらゆる情報を公開し、私たちの前でひざまずいて謝ることを望んでいる。
(2006.8.22 民団新聞)