掲載日 : [2006-10-25] 照会数 : 9712
調停委員就任に同胞弁護士に国籍の壁
調停委員就任へ見えない壁厚く
相次ぐ家事調停官、司法委員選任拒否
家庭裁判所や簡易裁判所で民事訴訟の解決にあたる調停委員として地元の弁護士会から推薦を受けた在日韓国人弁護士が、日本国籍を有しないために家事調停官や司法委員として選任されないケースが各地で相次いでいる。調停委員は「豊富な知識、経験を有する」人らを家裁などが最高裁に上申し、任命される。最高裁規則の欠落事由には国籍要件はない。この「見えない壁」を突破しなければ、という声が強まっている。
最高裁規則 国籍要件ないが…
傘下単位弁護士会から調停委員として推薦されながら選任を拒否された韓国人弁護士は、03年の梁英子さん(神戸家裁、家事調停官)を皮切りに05年の殷勇基さん(東京地裁、司法委員)、06年の崔信義さん(仙台家裁、家事調停官)と3件起きている。
崔さんは「最近は外国人の調停事件も増えている。なのに調停委員を日本人だけで固めていいのか。日本の国際化を考えると疑問だ」という。同じく殷さんも「本当に見えない壁がある。後輩のためにも一つ一つ突破していかなければ」と話している。
最高裁が家事調停官や司法委員に求めている資格は「豊富な知識と経験」。兵庫県弁護士会の推薦を受けた梁さんは家事事件に経験が深く、家庭裁判所からも不在者財産管理人、遺言執行者、成年後見人、保佐人、未成年者後見監督人などの職に任命されるなど、家裁からの信任が厚い。殷さんも崔さんも候補者としての資格は十分とされる。
3人の選任を拒否した理由を聞くと、各裁判所とも同様だ。「調停委員は『公権力』を行使する国家公務員で、外国人は選任できない」というもの。いわゆる「過去の亡霊」ともいわれる「当然の法理」だ。最高裁判所事務担当者は、当然の法理に抵触するとされる事例を次のように挙げている。たとえば、調停が成立した場合の調停証書の記載は確定判決と同一の効力を有すること、調停委員会の呼び出し、命令・措置には過料の制裁がある−−などだ。
これについて3人を推薦した各弁護士会は「個々の具体的な職務内容に照らして、外国籍者を排除する合理的理由があるかどうか。各職種の具体的職務権限に公権力の行使に該当する権限が含まれる、という理由だけで外国籍者を排除することが認められてはならない」と批判している。さらに、すでに破産管財人や成年後見人、相続財産管理人、不在者財産管理人、弁護士会役員、弁護士会の綱紀委員および懲戒委員など、多くの公的職務に外国籍の弁護士の就任が認められていることも考慮されなければならないという。
各司法関連職の外国籍者の就任可否について、最高裁判所当局は「回答を差し控えたい」(近畿弁護士連合会人権擁護委員会「外国人の司法参画を考える」シンポジウム実行委員会報告書、05年9月)と黙秘している。
家事調停官とは
家庭裁判所に調停申し立てのあった離婚、遺産分割などの紛争で当事者双方から話を聞き、妥協点を見いだす。一般的に非常勤裁判官といわれる。調停主宰者を多様化させ調停の紛争解決機能を充実させるのが目的。その地位は裁判官とは一線を画し弁護士が非常勤の裁判所職員を兼任しているというのが実情。日本で弁護士経験5年以上の者の中から最高裁判所が任命する。任期2年。
司法委員とは
隣人同士のトラブルといった民事訴訟の解決にあたって、弁護士や大学教授など一般市民の豊富な経験や専門知識を生かすのが趣旨。あらかじめ地方裁判所が「司法委員となるべき者」として選任した中から簡易裁判所が個別の案件ごとに指定し、最高裁判所が任命する。裁判官に助言したり、裁判官とともに当事者への説明や説得にあたるが、最終的には裁判官が判断する。任期1年。
(2006.10.25 民団新聞)