掲載日 : [2006-11-29] 照会数 : 6374
「物」資料が倍増1000点に 「在日韓人歴史資料館」
「見えない歴史」映す
在日社会に認知広がる
「在日韓人歴史資料館」(姜徳相館長)が東京・港区の韓国中央会館別館に開設されてから24日、1周年を迎えた。この間、関東と関西圏を中心に生活用具、文献、写真、映像などの寄贈が相次いでおり、書籍以外の所蔵資料だけでも1000点近くに倍増している。なかでも在日同胞BC級戦犯に関する資料はダンボール40箱以上にものぼり、公判の全記録に加え、物、書類、写真、映像と網羅的な収集が進んだ。来年以降の公開に向けて、整理を急いでいるという。ほかに徴用令書、落盤事故による死亡証明書、罹災証明書、給与明細書、「一時帰鮮証明書」なども蒐集する予定だ。ある時代の闇が見える日も近いようだ。
来春に向けて展示拡充準備
資料館は乙巳保護条約締結の1905年を起点としてちょうど100年にあたる昨年、民団が在日同胞の歴史を整理、体系化するために開設した。これまでに全国各地から寄せられた貴重な「物」などの資料は約980点、図書は4000冊、映像資料は250点にのぼる。開館後の来館者は延べ3625人(11月24日現在)。
姜館長は「オープン時には量的にも質的にも不充分であったが、展示にあたって万言の説明は不要とし、自然に歴史を体感できることを目指した。生活用具、文書、映像、写真を重層的に展示したのはそのためだ」と話している。
姜館長はまた、「資料館を訪れる来館者は、押入れの隅にあるような『ガラクタ』でも、資料館に置かれると立派な歴史の語り部になることを知り、『わが家にもこういうものがある』『昔の写真がアルバムに残っている』と資料提供を申し出てくださる」という。
これは資料館が在日同胞社会で確かな認知を得つつある証といえよう。事務局では来春に向け、大がかりな展示の拡充も計画している。
BC級戦犯資料海外からも照会
寄贈品の一部はすでに展示(約100点)しているが、これから整理にとりかかる資料は10箱以上を数える。蒐集資料のいくつかを紹介すると、日本の戦争責任を肩代わりさせられた韓国・朝鮮人BC級戦犯に関する資料では3つの戦犯刑務所内で使われ続けた囚人番号入りのタオル、スガモプリズン内で起こした人身保護請求裁判の記録、出所証明書、引揚証明書など貴重な一級資料がそろっており、海外からも問い合わせが来ている。
1952年にスガモプリズンから釈放されたときに発行された「引揚証明書」を見ると、当時の所持品はわずか数点のパンツとシャツだけ。いわれなき「戦犯」の汚名を着せられたまま、裸一貫で身寄りのない異国に放り出されたことへの無念の思いが伝わってくるかのようだ。
このBC級戦犯資料が呼び水となり、同じく「見えない歴史」であった同胞傷痍軍人やサハリン抑留者問題の資料が続々集まりつつある。
蒐集に携った研究院の尹義善さんは「資料館であれば資料の意味をふまえて大切に保全してくれるだろう。後世に向けてかならずや残してくれるだろうという当事者、関係者らの熱い期待がこめられている」という。
時代の〞空白〟埋める資料も
開館時には空白であった50年代、60年代の在日史を語るうえで避けて通れない「小松川事件」「金嬉老事件」「丸正事件」「日立就職裁判」などの資料も徐々に集まってきた。李珍宇が都立大の教授であった旗田巍さんに宛てた書簡集もその一つだ。
在日問題の研究で著名な崔永鎬霊山大学教授からは在日本朝鮮人建国促進青年同盟(建青)・新朝鮮建設同盟(建同)当時の一次資料38点が寄贈された。
日本の社会労働運動は在日を除外しては語れないということを示すビラ、スローガン、ポスターの数々、また解放後の民族教育に関する資料なども寄せられている。
ただし、情報発信基地として専門の学芸員を育てていこうという開設当初の目的はまだ模索の段階だ。より質の高い資料の寄贈を受ける条件作りの意味からも、大きな課題となっている。
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『図録』出版へ 開設1周年を記念
資料館の開設1周年を期して『図録』(A4判フルカラー160ページ)の制作も着々と進んでいる。掲載されるのは収集資料の中から精選した「物」、映像、写真など1000点近い資料。テーマ別に「物」、写真、文書を三位一体として立体感を持たせて編集している。担当の研究員は「単なるカタログではない。読んで、見て、在日同胞の歴史の側面を知ることのできるもの」を目指しているという。
完成は来年3月初めの予定。頒布価格は未定。
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ゼミ生が奉仕活動の場に
40カ国以上の学生が学ぶ東京のテンプル大学。あるゼミでは在日問題を定期的に取り上げ、そのつど見学し、レポートのテーマにしていく予定だという。
同大学の指導教授は「ゼミの学生は圧倒的多数が留学生だ。在日の問題を通じて日本を知る機会にし、世界のマイノリティー問題について考えるきっかけを与えたい」と述べた。
今夏、卒業論文作成や研究のために資料館を訪れた日本人学生たちは、研究員や学生会との交流を経て「資料館の役に立ちたい」と自主的にボランティアをかって資料館を応援している。
彼らの所属する東京大学、学芸大学、都立大学、慶応大学では学生が教授をつき動かす形でゼミ単位での見学会も組まれようとしている。学生会、日本人学生ともに、それぞれが資料館に価値や意味を見いだし、なんらかの形でボランティアとして関わりたいという一点では共通している。
都立大学大学院で人類学(在日朝鮮人史研究)を専攻しているある学生は「資料館を通じてさまざまな出会いがあった。歴史の評価は人それぞれだろうが、そのギャップを埋めていく場として価値がある」と話している。
姜館長は「資料館は小さなせせらぎのようにして始まったが、1年でここまで来た。近い将来、中学生や高校生の社会科の課外実習の場として、また旅行社が麻布の新名所に指定するよう、いっそうの充実のため次の1年を努力したい」と語っている。
(2006.11.29 民団新聞)