掲載日 : [2006-12-06] 照会数 : 9206
<在日から見える社会>基調 加藤紘一氏
基調 加藤紘一衆議院議員
道徳的優位大切に 歴史に素直でありたい
代議士になって4、5年たった37、8歳の頃に「日韓知的交流会議」でソウルに行った。そこで東亜日報の権五編集局長に会い、日韓問題、日中問題を話した。学識が広く、尊敬すべき人だと思うと同時に、それまでなぜ自分が在日韓国人に対する偏見を持ったのだろうかと思わされた。
今、中国が嫌いという日本人が多い。私は「親中派」と言われたり、中国に媚びる「媚中派」と呼ばれたりする。
しかし、頼まれもしないのに兵隊を連れて中国大陸に行き、結果として何百万人死ぬようなことをやったのだから日本は悪いことをした。悪かったら悪いと言い、言った後にはじっと耐えていることが重要だ。謝った後に、時々「しかし、われわれ日本は中国にこんないいことをした」と言う人がいる。それを言ってはならない。
また、「日本も悪かったかもしれないが、英国は香港に対してどんなことをした。アヘン戦争の後にどんなことした」と言う。そういうことを次から次に言うと、日中関係はなかなかうまくいかない。
遣唐使、遣隋使の頃は、おみやげを持って中国に行き、いろいろな文化・文明を習ってきた。その頃は尊敬の「敬中派」だったのではないか。天皇家の人たちがある意味で一番歴史をよく知っておられる。皇族の先祖には韓国からお嫁に来られた人がいると、今上陛下が言っておられたりする。
在日韓国人に対する偏見の一つが、土地を与えなかったということだ。日本人社会では土地を持っているということが、地域社会に認められる証明になる。それが信用の元になり、土地を担保に金を借りることができる。戦争中、強制労働などで無理やり連れてきた韓国人に土地を売ったか。今では売るようになったが、アパート、マンションを借りるのも大変な時代があった。在日韓国人を日本人コミュニティーの一員としてこれまで受け入れてきたか。日本人は反省しなくてはならない。
すぐれた在日韓国人がいい仕事をし、地域社会で尊敬されるようにすることが、いろんな偏見を徹底的に直していくことになる。地方参政権問題になると、一気に理屈を超えた反対論が出てくるが、権さんのような韓国人がテレビなどで発言していくことがすべてに勝る解消策だと思う。
金大中大統領が国会で演説した時、「自分の国の苗字があるのに、無理やり外国の苗字を使わされた国民の心の傷がわかるか」と創氏改名のことを指摘しながら、「だが、そういう風にされざるを得なかった自らの力不足も反省しなくてはならない」と述べた。国会議員が全員シーンとした。負けたと思ったからだ。その時、道徳的優位性という言葉を思い出した。一つひとつの計算や交渉で優位に立つことも重要だが、国として人間としてどちらがより道徳的に精神的に余裕があるかを競い合う、道徳的優位性を保てるように努力することを、金大中演説はあえて言った。
日中、日韓、韓中の指導者が道徳的に優位に立っているなと思われるように努力することを心得たら、それぞれの国の内政、外交に大きな変化が現れるのではないか。それが一番重要なプライドのナショナリズムではないかと感じている。
(2006.12.6 民団新聞)