掲載日 : [2006-12-06] 照会数 : 8197
<在日から見える社会>手つなぎアジアに活路を
[ 台頭するナショナリズムに警鐘を鳴らした公開講座(11月29日) ]
在日の境遇は複雑化
求められる豊かな柔軟性
在日韓国青年会などが11月29日に開催した市民公開講座「在日から見える社会」では、「外国籍住民とともに考えるナショナリズム」をテーマに、前衆議院議員の野中広務氏と加藤紘一衆議院議員の基調講演に続き、龍谷大学の田中宏教授をコーディネーターに対談が行われた。両氏の基調講演と対談の要旨は次の通り。
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【対 談】
田中宏氏 昨年の10月頃、韓国の文喜相党首(ウリ党)に会う機会があった。彼は「韓国は日本よりも排外的な部分が強く、ナショナリズムが強い国だからこそ思い切って地方参政権を開放することに踏み切った」と語った。ナショナリズムを克服する一つの形として、参政権を付与し、地域社会のメンバーに加えていくことが大切だと思うが、日本で何がネックになっているのか。
参政権問題で発言渋る議員
野中広務氏 竹下登・日韓議連会長の時の総会で韓国側から問題提起があり、双方で立法化するよう確認書まで交換した。竹下会長が法律家の公明党・冬柴議員に立法化を考えるようにと指示し、連立の時に協定に入れた。
ところが、冬柴議員の地元が、在日が多い尼崎だから(票集めのために)がんばっているというふうに揶揄された。連立政権の約束事なのにもかかわらず、その批判的な言辞に対して、日本側の幹事長として署名した人や関係した議員が何ら発言しなかった。もしも何らかの発言をしていれば、国会の雰囲気も違っていただろう。
また、残念に思うのは、韓国の地方自治体と日本の自治体との友好都市の締結が非常に少ない。京都でも城陽市がただ一つ慶州市とやっているだけだ。植民地時代の歴史を、あるいは差別感を日本の部落差別問題と同じように、人権問題としながらも、日本ではこの2つが引きずられている。地方議会からも参政権の議決があがっていたのにもかかわらず国会議員が真摯に受け止めようとしないまま国会が立法化を果たせなかった。
加藤氏 なぜ社会全体がそうなのか。政治家になって中国、日本、韓国のことをずっと考えてきた。交流の歴史の中で言葉というのは非常に大事で、明らかに言葉は中国から韓国、日本へと流れてきている。
韓国人が日本人に文化を伝えた、だから兄貴だと思うのは当然だが、明治以降、日本が先に経済発展し、欧風化を先にしたから、日本人は自分たちの方が偉いと思っている。近い兄弟喧嘩のようになっている。それをどう克服していくか。地域社会に溶け込んでもらう道を探す最大のポイントは、土地を持ってもらうことだ。
田中氏 「教育基本法」が国会で大詰めを迎えているが、議論の中で外国人の子どもが教育を受ける権利がまったく触れられていない。外国人の子どもがいるという前提で、多文化共生教育を考えていくべきだ。
野中氏 京都韓国学園をつくるときに手伝った私の経験から言うと、在日1世の場合は、子どもたちのために学校をつくろうという熱意が伝わってきた。各種学校で国から補助金をもらえないけど、自分たちが金を出してやっていこうという熱意があった。そういう1世がいなくなっていくと、韓国学校で学ぶ人自体が少なくなってくる。韓国の看板を下ろす。さびしい限りだ。
教育基本法改正には初めから反対している。いじめの問題などを徹底してやるべきなのに、安倍内閣の最初の重要法案として今教育基本法改正をやる必要があるのか。野党が委員会に欠席し、採決が満場一致で通ってしまった。
国民の大多数が今、メディアによって政治を見る。メディアによって世論が構成され、マインドコントロールされていく日本の姿を見ると、野党として国の将来を誤るやり方であったと思う。政党のあり方、政治家のあり方としても非常に残念だ。
田中氏 在日高齢者の無年金問題が先日の日韓議連の共同声明の中で初めて取り上げられたが、歴史問題がいまだに尾を引いている。
ポスト冷戦の新理念がない
加藤氏 中国、韓国、日本のナショナリズムはだんだん強くなると思う。冷戦時代には自由主義か共産主義か、それだけで赤組、白組に分かれていた。日韓の間にいろいろあっても北朝鮮の問題などもあり、違いをあまり言わなかった。92年に社会主義が崩壊後、まとめる理念、イデオロギーがなくなった。何で暮らしていくのか。自分の国の個性を前面に出すしか政治の仕方がなくなってくる。
政治、外交が難しくなってくる。そういうときにナショナリズムがボンと出るとどう考えるのか。小林よしのりの漫画のようにやけに「日本」を連呼すると、在日の皆さんは複雑度を増すのではないか。
ナショナリズムには3つある。1つは、隣近所と対立してもいいから自分の国をよく言う。「闘争するナショナリズム」。領土がどうだという争いのナショナリズム。2つ目は、女子スケートなどで日本が勝って喜ぶ「競争のナショナリズム」。3つ目は、自国の文化、古来からの精神を尊ぶ「誇りのナショナリズム」。この3番目のナショナリズムが強くなると一番いい。
在日は韓国の文化に誇りを持ちたい、その一方で、日本で住んでいるから同化しなければならないとも思う。生活か文化か。どちらかのナショナリズムで悩む。しかし、1つだけでない柔軟性を持つほうが豊かになるのではないか。
田中氏 30代の頃、留学生との関わりの中で、ベトナムの学生から「日本人は外国人を害国人と思っているのではないか」と言われたことがある。共存の手がかり、多文化共生をどう実現するか、外国人を排除するのに悪知恵を働かせるのではなく、いかにうまく共存していくために知恵をしぼるか。それが、今求められている。
(2006.12.6 民団新聞)