掲載日 : [2007-01-01] 照会数 : 11010
<専門家座談会>生活者団体の機能強化ヘ
[ 同胞社会の将来について語り合う(左から)李日海税理士と崔聖植行政書士、張学錬弁護士 ]
組織内外の人材結集を
組織の要は「人材と財政」と言われる。民団に人と資金を集めるには、同胞のライフサイクルに不可欠なサービスを、ニーズに応じて的確に提供することが基本になる。創団60年を契機に、民団が飛躍するためには、取り組むべき優先課題を明確にし、実施可能なサービスを実践しなければならない。在日同胞の李日海税理士、崔聖植行政書士、張学錬弁護士にそれぞれ専門の立場から生活者団体としての民団がなすべきことを提言してもらった。
(司会・編集部)
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今、何が問題か
対外との接点まだ弱い民団 張
ボランティア組織化すべき 崔
傍観できない遊技業の苦境 李
司会 民団の現状と民団を取り巻く状況をどうみるか。
崔聖植 支部の団長を3年務めた。取り組むべき課題は多いが、現場では人員が極めて足りない。東京管内の21支部を見ても、専従者が1人か2人で、団員からの問い合わせや要望があっても十分に対応できていないのが現状だ。
民団の役員はみんな奉仕活動で、現場ではかなりの部分でボランティアとして活動している。今、現場で出ている声は老人福祉の問題が多く、生活保護の申請や住居の問題が出ている。一緒に区役所に行って申請書を書いてあげるとか、手当てなどをもらってあげることをやらなくてはならない。ボランティアの組織化が大切だ。
人材活用を工夫
張学錬 民団は自分たちのための権益擁護はやってきたが、在日外国人のための運動や取り組みは薄かった。今、私は外国人のための運動に多く取り組んでいるが、運動の現場で総連の存在は見えるが、民団の影は非常に薄い。総連の人との接点はどんどんできるが、民団の人との接点はほとんどない。民団は内部業務で忙殺されてしまって、対外的な接点ができていない。
民団には人が足りないという話があったが、ではなぜ総連はできているのかを考える必要がある。金だけがキーではないというのが重要なところで、総連にはろくに給料がもらえなくても走り回っている人はいる。何も総連だけの話でなく、日本のNPOやいろんな社会活動をしている団体はお金がなくても動いている人は一杯いる。ところがなぜか民団にはそういう人が少ない。それを謙虚に受け止め、考える必要がある。
李日海 同胞経済を支えてきたパチンコ業界について話したい。この業界が厳しいというのはここ10年以上の話だ。なかでも1店あたりの機械設置台数が300台以下の小規模店舗、例えば父、息子2人の3家族が生業としているような零細のパチンコ業は成り立たなくなっている実態がある。例えば、300台未満の店舗数は2000年には1万1807店だったのが、05年には8158店舗でマイナス3649店。30%なくなっている。それに比べて300台以上の店舗は、00年には5181店だったのが05年は7007店で、1826店舗増えている。こちらは35%の増加だ。
いかにパチンコという事業形態が、生業から企業化、あるいは多店舗化しているかが如実に出ている。この波に押し流された同胞が多数いる。
小規模店が激減
司会 小規模のパチンコ店が急減しているが、同胞への影響は?
李 減少した中で同胞経営者の割合は、おそらく6、7割だろう。平均すると20年前くらいにオープンした店が多いが、同胞が経営する1100店舗くらいがなくなっている。同胞の経営者が1人当たり何店舗経営しているか統計で見ると、1・56店舗、2店舗に満たない経営件数だ。1100店舗を2店舗で割ると、計算上では全国で約550人、47都道府県で割ると1県あたり11人の同胞がパチンコ店を廃業したことになる。
これは最近5年間の数字であって、店舗数の減少は10年前から始まっている。あくまでも計算上の数値にすぎず正確に事実を表しているとは言えないまでも、生業としてのパチンコ業がもはや成り立たないという現実を表していると言える。特に大都市以外の地方でこの傾向が著しい。
司会 民団への影響も大きいのでは。
李 その通りだ。これらパチンコ店経営者の中には、各民団地方本部の有力者もしくはその後継者の息子が多数いる。在日社会の人材、経済という2つの地盤沈下が起きていて、民団の基盤に大きな影響を与えているはずだ。
パチンコ業界は経営の基本のところで行政の裁量に左右される部分が非常に大きい。出店の許認可、特殊景品買取の問題、機械の機種検定などだが、特に北朝鮮のミサイル・核開発問題以降、パチンコ業は日本にとって「行政」というより「政治」問題化している。
プリペイドカードシステムの半強制的導入から始まり、今回の5号機検定によるスロット機械総入れ替えまでの十数年の間、これらの「政策」が小規模なパチンコ店経営に大きな経済的負担になっている。
これに対して民団が経済の競争原理として致し方ないと切り捨ててしまうのではなく、組織の存立基盤の問題として捉えなければならないのではないか。例えば、「経済局」の設置などからはじめて、日本及び本国政府への働きかけも含めた大きな枠組みのなかで、パチンコ業界、特に小規模な経営者への負担が逓減するような方向を模索できないか。
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魅力ある組織とは
多様なサービスを 崔
公益法人化を推進 李
司会 どういうサービスに着手すべきか。
崔 戸籍整理は大切なサービスだ。パスポートをつくるために戸籍整理をしなくてはならない。戸籍謄本を取り寄せなくてはならないが、総連からの転入者は父の代から戸籍がなく、就籍の手続きをしなくてはならない。戸籍整理の研究会、指導会をつくって韓国領事館の専門官と実務について協議しながら、戸籍実務を進めるのも民団の仕事だと思う。
李 全国の支部本部会館の不動産登記の名義は、民団に法人格がないため民団の名前で登記できず、取得当時の団長や役員の連名など、個人名で登記されているところが多数ある。これによってどういう問題が発生したか、今後発生する可能性があるか。
最悪の例は、名義人が勝手に売ってしまうということだ。あるいは会館を担保にして借金をすることもある。また、名義人に相続が発生した時に、相続人が「親からもらった財産だ」と主張する可能性がある。
司会 会館の法人化は現在も推進中だが。
李 例えば、東京・江戸川支部では、別の理由があって設立した株式会社を既に所有していたので、この株式会社へ名義を移行する手続を進めている。ポイントは、株主が100%民団江戸川支部で、団長等の個人名は不要であるということ。これにより会社ひいては不動産が特定の個人の所有ではなくなる。
次に、名義移行の方法は不動産の現物出資であり、その対価としてお金ではなく株式を受取る。これは税務上の「譲渡」に該当する。支部会館を取得した時期が数十年前であれば、現在の時価と比較して「譲渡」による利益が発生する可能性がある。この利益に対する課税を避けるために、事前に税務署と協議し、この不動産が名義人個人のものではなく、民団支部の所有であることを確認しておく必要がある。
名義人は現物出資の対価として発行される株式の株主が民団支部であることを確認する文書を差し入れる。公正証書を作成すればさらに良い。名義移行のノウハウを積極的に公開し、中央が具体的方策を各地方本部に指導すべきだと思う。
税制上の恩典を
張 民団は本来公益的な団体なので、それにふさわしい法人格が与えられるべきだが、日本政府はこれまで一切容認しないという政策をとってきた。最近になってNPO、中間法人という制度ができた。さらに、財団法人、社団法人の制度改革がなされ、まだ施行されていないが、法律もできている。中間法人は廃止されることになり、一般財団法人、一般社団法人、公益財団法人、公益社団法人が作られることになった。一般財団法人、一般社団法人というのは簡単に作れる。これにより、登記の問題はクリアできる。公益財団法人・公益社団法人に昇格するための認定が透明化されるので、それにより税制上の恩典も受けやすくなる。これが決め手になるのではないか。
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再生への展望
「在日」の枠を広げたい 張
専門の相談センターも 崔
司会 それぞれの立場から民団再生の展望を。
張 一般的に見ると、大多数の在日にとって民団の存在感自体がない。「民団って何?」という時代にもう入っていると思う。一般団員に向けていろんなことをやっていると言っても、自分たちの手が届く範囲の団員を一生懸命追いかけているだけで、もともとマンパワーが足りないから多くの団員を取りこぼしている。一般の団員に民団の存在感、存在意義がまったく伝えられていない。
新規者にも対応
例えば、民団がセミナー開いているというのを聞いたことがない。さまざまなニーズがあるはずなのに、他の団体はいろんなセミナーをしょっちゅう開き、広く一般の人にも参加を呼びかけているのに、民団にはそれがないのではないか。そういうことをやるだけでも大分違ってくる。
崔 ニューカマーと言われる新規入国者への対応だ。韓国からの入国者が06年は210万人くらいだが、その中の新規入国者のうち160万が短期ビザで来ている。純然たる観光目的で来ているのは60万人くらいで、他の100万人くらいの人は何らかの目的で来ている。
彼らは日本語もできないが、日本でいろんなことをやりたいと思っている。手助けしてくれる人がいないので、知り合いにお願いするしかない。潜在的な援助の需要はあるのではないか。
彼らが口々に言うのが、「民団に入ってどういうメリットがあるのか」ということだ。民団が先住者としてきちんと彼らをサポートすべきだが、現場では人的に限界がある。ビザの申請書の書き方を教えてあげるとか、ニューカマーをターゲットにしたサービスができるようにすべきだ。そうすれば、ニューカマーにとっても魅力ある民団づくりができるのではないか。彼らは積極的に集まるので、民団が活性化する契機となる。
張 ニューカマーとの連携についても、民団内では「民団は在日のための団体。ニューカマーを入れるかどうか」という議論の仕方をする。そうではなく、同じ同胞なのだから当然組織の構成員、入れる入れないという議論自体がおかしいと思う。そういう見方自体がまだまだ前時代的なものを引きずっているのではないか。
模範的な例として言うならば、総連の同胞法律生活センターというNPO法人は、弁護士や税理士を何人も抱えていろいろな相談業務を受けている。総連の求心力、組織力の源泉は何なのかを謙虚に研究し、一から出直して勉強していく必要がある。
専門家で当番制
崔 民団も早急に専門家による生活相談センターをつくるべきだ。電話やインターネットのメッセンジャーを使えば、対面で話をすることができる。どういう形でサービスを展開していくのかメニューを作り、充実したサービスを全国的に普及させていく。
専門的な相談というのは24時間あるわけではないので、2日に1日は専門家が常駐し、サービスの内容をタイトルアップして全国からの相談を一括して中央が受けるようにする。100%ボランティアは無理なので、相談料分くらいの費用を出す。当番弁護士のような形で同胞の専門家のローテーションを組むのが望ましい。
李 立ち上げるのはそんなに難しいことではない。当番制でやればいいのだから。
張 地域的なハンディキャップを、IT技術を使えば簡単に乗り越えられることができるし、インターネットを通じて専門家の生のアドバイスが受けられる。
全般的な傾向を言えば、民団を必要としなくなった客観的な状況があると思う。昔は在日に対する差別が非常に厳しく、在日が寄り集まって肩寄せあって生きていくしかなかったから、必然的にお互いの体温のぬくもりを感じあう関係にあった。
今は差別がそんなにきつくないので、民団の傘の下にいなくてもちゃんと普通に生きてゆける。だから民団を必要としない。そのような客観的な状況はいかんともしがたい。
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在日のメリット
一世の苦労に報いよう 李
発想を変え広い視野で 張
司会 差別が見えにくくなっているのか。
崔 差別はまだある。参政権が奪われたというのは根本的な差別で、奪われた権利だと認識し取り組まなければならない。法的地位の問題にしても法務省は依然として在日を在留許可された存在としか認めてなく、われわれは権利として生きているのではない。その象徴的な問題が再入国の許可だ。早く撤廃しなければならない。
許可されて「日本にいさせてもらっている」立場にすぎないということをはっきり認識し、真の意味で生存権を勝ちとらなけばならない。
張 民団に何かのニーズを抱いている人には、しっかりサービスをしなくてはならないし、新しく入って来れるようにするための魅力あるサービスを提供すればいい。
次の世代にどういうメッセージを発することができるか。それはただ一つ。「在日に生まれてよかった」と思える何かを提供するということだ。在日に生まれて複眼的思考ができるようになったでもいいし、民団という団体があり、民団の後ろ支えがあったおかげで、人生の要所要所でメリットを享受したということがあれば、「在日でよかった」という風になると思う。いかに提供していけるのか、それが民団のレーゾンデートル(存在理由)、目指すべきモットーだ。
融資サポートへ
崔 在日でよかったと思うような組織づくりは大賛成。組織としての魅力をつくらなければならない。経済局設置も賛成だ。民団の中で専門家が経済的なサポート、アドバイスをするような機関をつくる。民商(日本共産党系商工団体)は公的融資を世話しているが、民団も融資が取れるようにサポートしていく。
民団に入れば、新規事業を立ち上げる際に、割安でいいコンサルティングが受けられるなど、「在日だから日本人よりもいいサービスを受けられる」という魅力づくりを専門家と一緒に進めていく。民団に入るとおもしろいし、メリットがあると思わせる。
司会 相続問題でもトラブルがあると聞くが。
李 支部会館の問題で、相続人が韓国、米国、豪州に分散していて、手続きを進める上で現団長が大変苦労している。遺言書や遺産分割協議書で支部会館の相続人を特定してあればもっと楽に手続きが進んだはずだ。
張 民団は全在日外国人のためのナショナルセンター的な機能を果たすことができる。民団だからこそ、その旗振りができるという期待がある。いつまでも在日、在日と言っているだけでなく、もっと活躍できる場を見つけて、世界に飛躍するステップにもなるのではないかと思う。
崔 外国人全般のナショナルセンターという視点は大切だと思う。ただ人権運動は自分の権利を守るところから始まる。そして、さらにその広がりを求めてお互い共闘していくために、自分の人権侵害だけでなく他の人権侵害に対しても関心を向けて、共闘することで日本社会で人権侵害を是正していく。
李 こういう悲劇的な事例もあった。夫が在日韓国人、妻は日本人で入籍されていなくていわゆる内縁関係が50年以上続いている。本国に本妻はおらず、二人の間に子どもがいない。この状況で夫が死亡し、財産を内縁の妻に遺贈する旨の遺言書がなかった。内縁関係では相続権がなく、子どももいないため、財産はすべて韓国にいる夫の兄弟が相続した。
遺言書の作成を
崔 生活相談センターでぜひ扱ってもらいたいテーマだ。相続問題のために、残された兄弟が空中分解する事例が非常に多いのではないかと思う。骨肉の争いで人生が狂ってしまう。行政書士や税理士事務所で事前に遺言書は作成できるので、民団が遺言書作成を推進してほしい。財産管理の問題も出てくる。
李 一世の皆さんは苦労して築きあげたご自分の財産をめぐって、残された配偶者、子ども達、孫達がかえって不幸な関係になってしまわないよう、是非遺言書を作成していただきたい。一度作成しても、直したければ何度でも書き換えればいいのだから。このことを団員の皆さんに周知、督励してもらいたい。
張 民族教育の問題は、言葉一つとってみても、なぜ決定版通信教育ができなかったのか。未だに韓国語の自学自主教材が存在しない。巷には山のように本があふれているが、英語レベルの自学自主教材がない。なぜ民団が組織を挙げて作れなかったのか残念だ。
学校は地域に限定されるので、地方に住んでいる人には恩恵が受けられないが、通信教育、自主教材なら作れたはずだ。オリニの本国体験を実施しているが、まだ足りない。韓国にどんどん送り込んで、韓国との縁を深めていくことも大事だ。
崔 韓流ブームにしても、在日の中でブームが出たわけではなかった。本国の人との交流をしながらどんどん変わっていく韓国を、同じ国の人間として感じるきっかけをつくるべきだと思う。
新規事業を始める時に、師匠になる存在、相談するところが必要だ。日本の役場にも経営相談などがあるが、在日が自分のことをさらけ出して相談するのはなかなかできない。民団の中で専門家とし成功した人がプランを作り、組織的に、継続的に後輩を導いていくセンターを立ち上げる。
張 在日が在日であることを相対化していく必要がある。弁護士になった時、最初にポリシーとして掲げたのは在日同胞のための弁護士ではなく、在日外国人のための弁護士になろうということだった。在日外国人としてのわれわれという位置づけを持つならば、もう少し広い視野、取り組んでいかなくてはならない課題が出てくる。
私が理事になっている社会活動のNPO法人では、インターンを募集すると、なりたいという人が一杯来る。民団も門戸を開けば、人はいくらでも集まってくると思う。大学と提携して学生を受け入れようというような発想自体がなかった。発想を変えるだけでも大きく新しい展開を迎えることができると思う。在日外国人としてもう少し広い視野で考えると新しい展開が出てくるのではないか。
(2007.1.1 民団新聞)