掲載日 : [2007-01-17] 照会数 : 7544
日雇い労働者に故郷の味届ける 崔順福さん
日雇い労働者に故郷の味届ける 大阪・西成あいりん地区で崔順福さん
元旦にトック600食
今年で12年目…韓国人ら行列
【大阪】建築・土木関係にたずさわる日雇い労働者の街、大阪・西成のあいりん地区。同市鶴見区で韓国創作料理店を営む崔順福さんは毎年、元旦になると同地区の三角公園で温かいトックを振る舞っている。12年目の今年は600食を提供した。公共工事のカットで仕事にあぶれた韓国人労働者はほんのひとときながら「故郷の温かい家庭の時間」を実感できる瞬間といえる。
崔さんは「日本にきて31年。韓国から仕事に来た人を見ると、同郷の思いが出て、ほうってはおけない」という。「主人からは関わらないほうがいい、やめなさいと言われた」。でも、「どうしてもほうってはおけなくて。性分ですかね」と崔さんは明るく笑った。
店にたまたま食事に訪れたお客が韓国からの労働者だった。話を聞くうちに「西成区内にもたくさんの労働者がいてる」ことを知った。韓国人労働者が異国でさびしい思いをしているのではないか。そう思うといたたまれなかったという。崔さんは「韓国に帰れない人たちにせめて元旦ぐらいは故郷を思い出してもらおう」と、トックとキムチ各100食分を準備したのが始まりだった。
初めはどこで配ったらいいのかわからず、日雇労働者向けの簡易宿泊所(ドヤ)が密集する三角公園の外や道路で配っていた。地元の労働者は崔さんに対して「新参者」が来たかのような冷たい視線を向けた。
「もう次からは止めよう」。元旦にあいりん地区に足を踏み入れるたび崔さんの心は振り子のように揺らいだ。が、年末が近づいて来ると、「ああ、どうしているのかな。もしかして待っているのかな」という思いに駆られていくのをどうしようもなかった。
翌年は食材200人分を準備した。この年もまたたく間に無くなった。トックを口いっぱいにほおばり「おいしい、おいしい」と夢中ではしを動かしていた。「キムチが美味しい。なつかしい」と言って喜んでいる姿も見た。崔さんは涙が出てしかたがなかった。
公園では宗教団体やNPO団体が豚汁とおにぎりの配給を行っている。ここに崔さんが加わってからは行列に変化ができ、労働者は競って崔さんの前に並ぶようになった。
今年の元旦はトック55㌔600食分、キムチは30㌔、赤飯のおにぎりは300個準備した。崔さんの心づくしの食事の配給を待ちかねていたかのように「オモニー!」、「早く食べたい」と行列ができた。
当初は反対していた夫の崔炳潤(民団大阪・城東支部総務課長)さんも「正直いって毎年大変だけど、喜んで食べている姿に胸がいっぱいになる」と、今は一緒に手伝っている。同支部の安市太朗支団長も「初めて話を聞いたときはびっくりした。12年も続けるということは大変なこと。とてもありがたい」と話していた。帰り際、「来年、また来るやろー?」という問いかけに、崔さんは「また来るよー」と元気に答えていた。
(2007.1.17 民団新聞)