掲載日 : [2007-02-21] 照会数 : 11165
在日女性の文芸誌 「地に舟をこげ」
[ 「地に舟をこげ」の編集委員たち。中央が創刊した高英梨さん ]
ありのままの言葉で 開かれた表現、記録の場に
「現代史、問いただす」…作家・高英梨さんらが創刊
在日女性の文学文芸誌『地に舟をこげ』がこのほど船出した。在日2世の高英梨さん(84)=作家、神奈川県藤沢市在住=が、「自分を含めた1世や2世の女たちの受苦の姿を、在日女性の等身大の声で記録しておきたい」と創刊した。韓半島になんらかのルーツがあれば誰にでも開放されているという。表現意欲はあっても自らの発表の場を持たなかった在日女性たちに「修練と鍛錬の場」として歓迎されている。
社会評論社から発売された創刊号(1200円+税)は昨年11月、全国の大手書店に並べられた。内容は長編小説のほか随想、評論、紀行文、詩、短歌、コラム、写真、レシピなど盛りだくさん。278㌻にわたり30歳から80歳代まで幅広く19人の作品が収録されている。
巻頭対談では「九条の会」の中心となっている澤地久枝さんが、日本の戦後史は在日の歴史が欠けた「のっぺらぼう」状態と指摘、「昭和は在日の歴史と絡めて書くべきだ」と直言した。これに高さんは「日本の女性たちとはまったく違った在日という立場でものが見えていた。そこの部分をしっかり記録しておきたい」と応じた。
この発言からは、少数者の視点から日本の現代史を問いただしたいとの高さんの強い意欲が感じられる。高さんは「日本の社会に小石ほどの波紋でもいいから広げられたら」と控えめに語る。それが困難なことを承知しているからこそタイトルは『地に舟をこげ』と命名したのだという。
発刊にあたり高さんが自ら知っている範囲で賛同の編集委員を募ったところ、50代から80代まで在日2世を中心に「一言居士ばかり」6人が集まった。その構成は韓国・朝鮮籍者だけではない。母親あるいは父親に日本人を持つ日本籍の同胞も含まれた。まさしく「モザイク模様」。ただし、なんらかの形で韓半島にルーツを持つことは共通している。
「ものを書く修練の場に」
編集委員の1人、李光江さん(編集者)は「こういう信念を持って生きなければならないという縛りもなく、自由に、開かれた表現の場ができたのはすばらしい」と顔を輝かせていた。イラストレーターでもある朴民宣さんは「編集委員はわずか7人だが、そのアイデンティティーのプロセスとかあり方もまったく違う。こういう多様な在日女性と出会えたのがうれしい」と話している。
同じく呉文子さん(エッセイスト、『鳳仙花』同人)は「この雑誌は在日女性がものを書くにあたっての修練、鍛錬の場ともなる」と期待している。作家の深沢夏衣さん(ペンネーム)も「女性たちがまず声を出してほしい。在日女性の多様で集団的な力に期待している」という。
発行は年1回。創刊号は1500部を出した。第2号は11月の予定。雑誌購入の問い合わせは社会評論社(℡03・3814・3861)。
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賞・地に舟をこげ
在日の作品募集
『地に舟をこげ』創刊にあたって高英梨さんは資財の一部1000万円を投じて「賞・地に舟をこげ」を創設した。この賞は在日女性の多様な生き方を表現した作品を公募し、その中から選考委員が特に優れていると認めた作品に贈る。賞金は1編30万円。
原稿枚数は400字詰め200枚以内。締め切りは今年5月末日(当日消印有効)。発表は11月発行の第2号誌上。
応募先は〒251‐0016神奈川県藤沢市弥勒寺1‐13‐8 在日女性文芸協会。(℡とFAX042・486・8129)。
(2007.2.21 民団新聞)