掲載日 : [2007-03-14] 照会数 : 8693
本名名刺に顧客が嫌がらせ…差別発言問い裁判
積水ハウス 会社ぐるみで後押し「企業の社会的責任」…徐文平氏
【大阪】在日韓国人2世、徐文平さん(45)=積水ハウス関西特建カスタマーズセンター勤務=が、本名の名刺を理由にリフォーム客から2時間にわたって露骨な民族差別を受けたとして300万円の慰謝料と謝罪広告の掲載を求めている民事訴訟は、大阪地裁で間もなく実質審理に入る。原告側は6月下旬と目される1回だけの証人尋問を「最大の山場」としており、多くの傍聴を呼びかけている。
4月から実質審理 支援の会も発足へ
この積水ハウス在日社員裁判は、当事者が民族差別発言を訴えた初のケースとして注目されている。徐さんは本名で働くことを否定する行為の是非を問うため、あえて法廷に訴えたという。徐さんを雇う積水ハウス側がそうした原告の立場を受け止めて提訴を後押しし、裁判を支援しているのもかつてなかったことだ。
第1回口頭弁論は06年9月13日に開かれた。13日には被告側が第2準備書面を提出し、書面のやりとりは終わった。今後は4月中旬に徐さんが陳述書を提出し、証人尋問を経て結審する。判決は8月頃と見られている。
これまでの準備書面を見ると、双方の主張は全面的に食い違う。被告側は差別発言を全面的に否定、「2、3万円の工事と思ったら25万円を請求され、さらに50〜100万円の改修工事が必要といわれた。金額が法外だと思ったし、説明にも非常な疑念を持った」という。
インターネット上には徐さんが被告の顧客を恫喝したなどという書き込みが見られ、はなはだしくは「人権で圧力をかけて自分のいうとおりにさせるリフォーム詐欺」と決めつけるものも見られた。これに対し積水ハウス側は「当社としても先方と円満解決を試みましたが、解決に至りませんでした。徐さんに対する支援は、雇用管理や社会的責任という観点から行っています」と話している。
徐さんは山口県で生まれ、大阪府八尾市育ち。小学校から「八尾トッケビの子ども会」に参加し、中学2年の3学期に本名宣言し、いまに至っている。積水ハウスには98年3月、入社した。
名刺は最初から本名にカタカナ表記。4年前からはさらにハングル表記も加えた。これは顧客から中国人ですかと聞かれるようになったため。同僚から「業務にこれ(ハングル表記)必要なの」と聞かれると、「これが私の名前です」と突っぱねた。
これまで顧客から「帰化したらええのに」「韓国に帰ったら」といわれたことはあるが、我慢してきた。ただし、今回の差別発言は会社側が見過ごさなかった。法務局に出向き、人権擁護官に事情を説明した。それでも被告に反省はなかった。裁判か泣き寝入りか、徐さんは最後まで迷った末に、「僕みたいに嫌な思いをした人がちょっとでも勇気づけられたら」と裁判に踏み切った。
提訴のニュースに愛知県の在日同胞の主婦から手紙を受け取った。「記事を見て、元気をもらったような気持ちになりました」と書かれていた。徐さんは「これは僕の宝です」ととびきりの笑顔を見せた。
徐さんを支える「在日社員本名裁判支援の会」の発足集会が25日、午後2時から大阪・天満橋のドーンセンターで開かれる。集会はこの裁判を詳しく知ってもらうための学習会も兼ねている。
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提訴までの経緯
05年2月、積水ハウスは排水が詰まった店舗付きマンションの所有者から連絡を受け、排水緊急復旧工事を施した。担当者から業務を引き継いだ徐さんは、再発防止のための排水施設工事計画書と同工事の見積書を作成し、復旧工事を担当した従業員とともに顧客宅を再訪した。
徐さんがハングル入りの名刺を差し出したところ、被告は「ようこんな名刺を出すな。朝鮮総連の回し者か。北朝鮮に金なんぼ程送金してんや。おまえのようなやつがいるから拉致の問題が起きるんや」「もし北朝鮮と日本が戦争になったらおまえは敵やないか。積水ハウスがそういう人を雇っているのは、朝鮮総連に建物を建ててもらったからやろ。何かメリットがなければ雇っているはずがない」などと発言した。
徐さんは韓国を国籍とし、日本で生まれたことを告げた。すると、「積水も誰を雇おうが自由やけど、何でお客の前に出すねん」と、約2時間にわたって徐さんの心情を傷つける発言を重ねた。
(2007.3.14 民団新聞)