掲載日 : [2007-04-11] 照会数 : 8564
本格焼肉映画「プルコギ」のグ・スーヨン監督に聞く
[ インタビューに答えるグ・スーヨン監督 ] [ プルコギ食堂の前に立つタツジ役の松田龍平(右)とヨリ役の山田優 ]
焼肉は在日独自の食文化
全国で来月公開
史上初の本格焼肉映画として話題を呼んでいる在日韓国人2世、グ・スーヨン(具秀然・46)監督の「プルコギ」が5月5日から、渋谷シネクイントほか全国で公開される。映画では白肉vs赤肉の焼肉対決を描きながら、食がつなぐ家族や人との関係を浮き彫りにしている。自らホルモンが好きだと話すグ監督に聞いた。
「例をみぬ創意工夫」素材通じて人との絆描く
一昨年、別な映画の企画をしている時に「ホルモンはゲテモノ」だと言われて、頭に血がのぼったあるプロデューサーが、たまたま入ってきた。僕らは「なにー、本当に旨いのはホルモンだ」「そうだ、そうだ」と話しているうちに、これは映画になるんじゃないかというのがきっかけです。
在日は日本で独特の文化を築いてきたと思います。ホルモンはもともと韓国にはない料理で、タン塩も在日が発明しました。僕としてはマイナスのパワーは大事だとは思いますが、「なんだこの野郎」というパワーではなく、普通に持っている在日のマイナスではない文化をちゃんと表していければというのがありました。それには焼肉は絶好のモチーフでした。
あと昔は日本にもあった家族の絆とか、兄弟だったりということを原点に戻って、もっと大事に考えるべきではないかというのはありました。
家族で食卓を囲む風景は、自分の原風景のなかにあります。そこを映画では出したかった。家、家族は究極のコミュニティーというか、そこで味覚も含めモラルも形成されたことが今、50歳近くになって分かってくる。日本でいう「三つ子の魂百までも…」じゃないですけれども、大事なことをそこで学んでいく。目上の人に対する礼儀みたいなものも、まだ韓国には残っています。
世界の映画祭に行くと、韓国の映画には文化があると言われます。それが儒教的と言われていいか悪いかは別としても、面白い文化で、そういう絆が新鮮に見えるらしいんですね。アジア独自の文化は日本にもあったのに、友だちのような家族になってきて、それはそれでいいとは思いますが、その前提がなくなってしまうとだめなんじゃないかと思っています。
撮影では苦労しました。肉はすぐに焼けちゃうんです。あっという間に撮れなくなる。肉を交換してそれは大変でした。肉代だけでベンツが2台買えるくらいでしたね。
服部栄養専門学校の服部幸應先生が、「肉には人を幸せにする機能がある」ということが科学的に証明されていると話しています。いい仲間たちと美味しく食べるのは本当に幸せですよね。
ホルモンを通じ知って欲しい事
肉はもっとブームになってほしいですね。関東ではホルモンを知らない方も多いと思います。シマチョウ、コプチャン、シビレなどホルモンにこれだけ種類があるとは思っていないので、そこを日本の方に知ってもらうと在日の文化みたいなものが見えてくるのではないでしょうか。
在日の焼肉に対する創意工夫は世界でも類を見ないケースだと思います。研究心、探求心がもともとあるんじゃないでしょうか。在日同胞は自信どころではなく、大変なことをしています。味付けも進歩している。肉に対する気の使い方も韓国とは全然、違う。完全なオリジナルですね。在日はマイナスのイメージばかりでなく、プラスのイメージをもっと大事にしていきましょう。
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達人の店、危うし あらすじ
空前の焼肉ブームのなか、人気テレビ番組「焼肉バトルロワイヤル」で前人未踏の赤肉料理でキングの座に君臨する巨大焼肉チェーン虎王の御曹司、トラオ(ARATA)。虎王チェーンが唯一業績不振の北九州地区には焼肉の達人韓老人(田村高廣)の店、白肉が人気を集めているプルコギ食堂があった。韓老人の下修行に励むタツジ(松田龍平)と孫のヨリ(山田優)。あの手この手でプルコギ食堂をつぶしにかかる虎王。ある出来事をきっかけに、タツジは虎王に立ち向かう決意をする。
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プロフィール
CM界の奇才、多彩な活躍
グ・スーヨン(具秀然) 1961年山口県下関生まれ。広告制作プロダクション(株)デルタモンドから、(株)サン・アドに移り、26歳でディレクターデビュー。1944年にGOO TV COMPANY ltd.を設立。CM界の奇才として手掛けたCMは多種多様なジャンルにわたり、人々の記憶に残る話題作が多数。CMディレクターのみならず、アーティストのMTV、プロデュース、作詞、小説も手掛ける。「偶然にも最悪な少年」(03年)で初監督を果たす。
(2007.4.11 民団新聞)