在日2世の金床憲さん
街おこしへキャラクターグッズ
大阪市生野区に30数年前まで存在した「猪飼野」は百済をはじめとする渡来人のふるさとだった。そのなごりは近隣に百済寺の跡地や百済貨物駅、百済橋などいまでも随所に垣間見られる。埋もれた歴史の宝庫だ。そうした多彩な歴史遺産を掘り起こし、地域の活性化につなげようと、在日2世が製作したキャラクターグッズが静かな人気を呼んでいる。
代表的なグッズは笑顔のかわいい小さなぶたのぬいぐるみの携帯ストラップ(ミニ絵本付き)。ぶた(亥)は韓国や中国では07年の干支だ。特に笑っているぶたは客を招き、大きな財をもたらすと信じられている。背中に韓国人の民間信仰の象徴である北斗七星をあしらい、縁起のいい黄金色のチェーンを付けた凝りよう。
在日2世の会社員、金床憲さん(44)=千葉県在住=が製作した。ぶたのぬいぐるみをキャラクターに起用したのは猪飼野が韓国と深く結びついていることを知ってもらうため。ぶたを水先案内人に、古代からの韓日交流史の世界を紹介する自作のミニ絵本「猪甘津猪飼野千六百年」も付けて680円。今年に入ってから干支の効果からか注目を浴び、東京のイベント会場で1日50個売れたこともあったという。
絵本は名刺サイズで、日本語版とハングル版各5000部を製作し、その多くを日本国内で無料配布した。ハングル版に残りがあるので、今年中に韓国国内で2000部を配布することを計画している。グッズの製作費用は金さん個人の持ち出しだ。夫人の冷ややかな視線を背に、決して多いとはいえないサラリーから工面している。
金さんが大阪の百済文化を偶然知ったのは20数年前のこと。たまたま大阪を訪れた際、「百済」貨物駅の看板を見てちょっとした衝撃を受けた。その思いが10余年後にキャラクターを創作しようという発想につながったという。当時はサッカーW杯の韓日共同開催を前にして沸き立っていた。金さんはお祭り騒ぎのなか、在日そのものの影が薄くなるのに危機感を覚えていたころだった。この歴史遺産を在日の財産として活用できないかと考えたという。
思い悩んだ末、金さんは「ほんとうの歴史や文化」を在日の側から日本と韓国に発信していくことを思いついた。そうすれば次代を担う子どもたちが自負心を持って生きられるのではと。「生野はもともと豊かな水脈を持つ土地です。水道も引かれていたのですけど、錆びていたので私は油をさして蛇口をほんの少しひねってみました。そしたら、ちょろちょろと水が出始めたんです。そのうち大きな水田になるでしょう」と話す。
生野区では最近、渡来文化の史跡巡りがちょっとしたブームの兆しを見せ始め、金さんは確かな手応えを感じている。これを大きなウェーブにするため、次の一手をすでに考えているという。
ホームページのアドレスは
http://www.up-v.com/ehon.htm
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「猪飼野」とは
JR鶴橋から桃谷の東側一帯を指す。現在の桃谷、中川西が含まれる。「猪飼野」の地名は1500年の歴史を持ち、日本書紀や古事記にも出てくる。猪飼野の古名「猪甘津」の「猪」とは「ぶた」を意味する。すなわち豚を飼っている人たち(猪甘部)が住んでいた地域だった。「津」とは船着場のこと。すぐそばに「百済川」が流れ、当時から大陸への玄関口だった。
(2007.4.11 民団新聞)