掲載日 : [2007-04-25] 照会数 : 11498
<朝鮮通信使400周年>「奇跡の使節」描く映画完成
[ 駿府城に入場する朝鮮通信使の場面(撮影風景) ] [ 山本起也監督 ]
記録性と感動追求
市立全校に配布へ…静岡市
【静岡】400年前の「奇跡の使節」朝鮮通信使訪日を史実に即して掘り起こした映像作品「駿府発・21世紀の使行録/朝鮮通信使」(山本起也監督、50分)が完成した。これからの善隣友好関係を考えるうえで示唆に富む内容となっている。企画した静岡市ではDVD化して市内171の公立小・中・高校すべてに教材として配ることにしている。
静岡市が07年度、2000万円を予算化して静岡市にコンテンツビジネスを醸成させるため設立した産官学組織「しずおかコンテンツバレー推進コンソーシアム」に制作を委託した。作品は「海游録」「東槎録」など、いまも残る朝鮮通信使使行録(訪日記録)をもとに出演の林隆三さんがナレーションや朗読で当時の通信使の言動を生き生きと現代によみがえらせている。
また、全国各地に散在する記録・絵図・文書資料などのもの言わぬ史料も、ハイビジョンカメラを使って躍動感を与え、魂を吹き込んだ。「史料をベースとしながらも表現としての映像イメージでは落差をつけた」(山本監督)という。
圧巻は絵巻物と300人近い市民エキストラを使ったユニークな行列シーンだ。清道旗を揺らしながら徳川家康の待つ駿府城に進む通信使の一行。透過光を通してほのかに浮かび上がる「絵」に描かれた江戸庶民がいつしか「絵」から抜け出し、通信使との一大群衆シーンとなる。
対馬から江戸までの朝鮮通信使の足取りを「広く浅くすべて分からせ」さらに「感動させる」という困難な命題を両立させたのは山本起也監督の手腕に追うところが大きい。山本監督は「盛りだくさんの内容を語りながら、どこで観客の心を揺さぶるのか。そのバランスに苦労した。教材である以上はエンターティメント性、面白さは欠かせない」と話している。
山本監督がしずおかコンテンツバレー推進コンソーシアムから依頼を受けたのは昨年12月。「そんなに簡単ではない」と躊躇しながらも、「アジアの近隣諸国との関係がうまくいっていないいまだからこそやる意味がある」と決断した。
作品では1711年の朝鮮通信使の招聘をめぐって対立した新井白石の力で押し切る「改革」外交と、誠信の交わりを重んじる雨森芳洲の「交隣提醒」を対比して描くなど、随所に山本監督なりの善隣友好への思いを託している。映画が何の前触れもなく終わるのもなにやら示唆的だ。200年間も続いた平和外交がなぜ中断したのかを考えさせられる。
映画は「第13回朝鮮通信使ゆかりのまち全国交流大会」の開かれる5月19日、静岡市内の清水テルサホールで午後3時と4時半からの2回にわたって上映される。無料。また、韓国語の字幕を付けて釜山市の博物館にも寄贈される。
問い合わせは℡054・354・2313静岡市産業政策課。
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プロフィール
やまもと・たつや 66年、静岡市生まれ。主な作品に長編ドキュメンタリー映画「ジム」(03年ロードショー公開)、06年には静岡を舞台に「ツヒノスミカ」を完成。06年10月から京都造形芸術大学映画学科准教授。
(2007.4.25 民団新聞)