掲載日 : [2007-05-16] 照会数 : 75847
韓国人の誇り胸に 宝塚・星組トップ安蘭けいさん
[ お披露目公演の「シークレット・ハンター」でダゴベール役を演じる安蘭けいさん ] [ 素顔の安蘭けいさん ]
魅了の舞台
入団へ挑戦4度、卒業は首席
「困難乗り越え今がある」
昨年11月に退団した湖月わたるさんの後任として、宝塚歌劇団=宝塚市栄町=の星組新トップに就任した在日韓国人3世の安蘭(あらん)けいさん。外国籍での男役トップスターは、79年に退団した中国籍の鳳蘭さんに次いで2人目。3月23日から4月30日まで、宝塚大劇場で行われた主演男役お披露目星組公演「宝塚舞踊詩・さくら」「ミュージカル・シークレットハンター」では、美声を誇る歌唱力と全身からみなぎる迫力の演技で観客を魅了した。この半年間、「またたく間に時間が過ぎていった」と話す安蘭さんに聞いた。
星組新トップの就任にともなう新生星組のお披露目公演は、「緊張の連続」だった。これまでトップの交替によって、組の雰囲気が一変する場面を何度も観てきた。評価を得るも得ないもトップ次第。組を率いていく立場に大きな責任を感じている。
安蘭さんの安定した舞台には定評がある。身長167㌢。男役としては決して高いとはいえないが、見事な歌唱力と情感豊かな表現力で圧倒的な存在感を示している。実力派と評されながらも、日ごろの努力は惜しまない。「毎日が勉強。厳しい練習も舞台に立つと観客の拍手に癒される」
宝塚歌劇団との出逢いは中学1年のとき。父親に連れられて初めて観た華麗な舞台に魅せられ、「宝塚歌劇団に入る」ことを決意。週3回、学校から帰って自宅のある滋賀県から宝塚市までレッスンに通った。帰宅はいつも午前零時を回った。
高校に通いながら宝塚音楽学校を毎年受験するも、いずれも不合格。高校卒業後の4度目の挑戦で合格し、念願のタカラジェンヌへの切符を手にした。91年に首席で卒業し、月組公演「ベルサイユのばら〜オスカル編」で初舞台を踏んだ後、雪組に配属。「舞台デビューした時は、キラキラと輝いているスターたちの姿を見ることがうれしかった」
新人公演の初主演は95年「JFK」のケネディ大統領役だった。その後3作の新人公演に出演。00年星組に組替えが決定したとき、「なんで私がという思いだった。新しい組で自分ができるかどうか不安で一杯だった」と当時の戸惑いを語る。
現役生徒初の新人賞も受賞
だがそんな不安をよそに、03年日生劇場公演「雨に唄えば」で主演。同年「王家に捧ぐ歌」では女役に挑戦し、対照的な2役の優れた演技力が評価され、宝塚歌劇団の現役生徒では初の第25回松尾芸能賞新人賞を受賞するなど実力を発揮していった。
これまで順風満帆でやってきたかのように思われるが、トップに就くまでの道のりは平坦なものではなかった。納得のいく演技ができず何度もくじけそうになった。同期生が次々にトップになるのをただ見ているしかなかったこともあった。今、その困難を乗り越えたからこそ「強い自分がいる」と胸を張って言える。
芸名に込める家族の思い
安蘭さんにとってこの間、ずっと心の支えになってきたのは韓国人の誇りだ。芸名の「安蘭けい」は、「アリラン伝説」主人公のアランから本名の安、花の蘭、故郷・慶尚南道の慶をひらがなにすることを家族で決めた。安蘭さんは「皆の前でも父親を『アボジ』と呼ぶ」と屈託がない。
05年11月、宝塚歌劇団の初の韓国公演に「ソウル・オブ・シバ!!」のシバ神役で参加したときのことだ。「ただ嬉しかった。初めて母国の舞台に立ったのになぜか懐かしく、何かこみ上げてくるものに感動した。それ以来、もっと自分が好きになった」とこれまでに味わったことのないという体験を語った。
これから星組のトップとして「今以上に皆の心と情熱が1つになるような組にしたい。そのためにも私自身が刺激的な存在であり続けたい」と大きな瞳を輝かせた。
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東京宝塚劇場での主演男役お披露目星組公演は、5月18日から7月1日まで。
(2007.5.16 民団新聞)