掲載日 : [2007-05-30] 照会数 : 7030
「在日の苦労映像で知ろう」 優れた映画を観る会
[ 19回目の上映会を終えた飯田光代さん ]
代表の飯田光代さん
ドキュメンタリー上映会 東京世田谷で9年
先月、「日本人もしくはイルボンサラムへ」のタイトルで、19回目の上映会を行った「優れたドキュメンタリー映画を観る会」代表の飯田光代さん(55=東京・世田谷区経堂)。障害を持つ息子を育てながら、地域での上映にこだわり続けて今年で9年目。この間、障害を持つ人だけではなく、困難に直面するマイノリティーの存在を知った。00年に上映した作品との出会い以来、在日、韓国・朝鮮に関わる作品も紹介している。背景の異なる人たちが「お互いに理解し、助け合って生きていく関係」を目指す。
「理解と助け合いこそ」
普通の主婦の願い 広がる共感
毎年4月、東京・世田谷区の下高井戸シネマで開催する恒例の上映会を終えた。在日の金聖雄監督の「花はんめ」や梁英姫監督の「ディア・ピョンヤン」、日中戦争当時、旧日本軍から性暴力を受けた女性たちを追った中国人、班忠義監督の「ガイサンシーとその姉妹たち」など多彩なラインナップとなった。
アジアの作品を客観的に見よう
タイトルを「日本人もしくはイルボンサラムへ」としたのは、「自分たちがどういう社会に暮らしているのかを知るために、アジアの作品を通して客観的に見る必要性」と、「自分たちの祖先がアジアに対して何をしてきたかについて、無関心な一般の日本人に目を向けてほしかった」からだ。
実は飯田さん自身もある作品に出会うまで、「なぜ在日の方たちが日本で暮らし、こんなに苦労をしているのかということすら知らなかった」と話す。
その作品とは中国に暮らす韓国出身の元従軍慰安婦、鄭順意さんの姿を記録した班忠義監督の「チョンおばさんのク二」だ。この映画で飯田さんは鄭さんの遺書の朗読を担当。00年、観る会で最初に手がけた韓国関連の作品となった。
上映会を通じて知り合った「尹東柱の故郷を訪ねる会」のメンバーや、地域に暮らす在日のアーティストらから、それまで知り得なかった多くの事柄を学んだ。「この映画をきっかけに在日、韓国・朝鮮人の抱える問題に目が向いていき、自分なりに勉強をした」。以来、在日やアジアに関する作品を毎回、取り上げてきた。
映像の訴える力魅了され会発足
飯田さんを観る会発足に導いた1本のドキュメンタリー映画がある。95年に障害を持つ少女とその家族を記録した伊勢真一監督の「奈緒ちゃん」だ。数年前に次男、悠史さん(19)が自閉症と診断されていた。当時、小学校入学を前に進路で迷っている時期だった。「その映画からどんなに重い障害の子でも成長していくんだというのが見えた」
その年、地元小学校の心身障害学級「わかば学級」に入学。飯田さんは通常学級と心身障害学級との見えない垣根をはずしたいとPTAに掛け合い翌年、小学校で自ら感動した「奈緒ちゃん」を上映。多くの母親たちの心を動かした。その後、心身障害学級の母子との親睦を兼ねた支える会「わかばの会」を多くの通常学級の母親たちの賛同を得て立ち上げ、さまざまな支援活動を行うまでになった。
「奈緒ちゃん」以来、ドキュメンタリー映画の持つ力に魅了されていく。99年3月、PTAや地域の主婦らと観る会を発足。核を成すメンバーは8人で大学教授、福祉、教育などにたずさわる多彩な顔ぶれが揃う。
「私は出産したときからマイノリティーの立場に置かれた。でも息子がいたことによって、自分がさらけ出されることによって強くなった。1日も早くありのままの姿を出せる社会になったらいいけれど、外に目を向ければ在日や中国人、日系の人たちもいて皆が大変さを背負っている。そのことを上映会を通して世間の人たちに知ってもらいたい。そして本当に大変だと思うときに、お互いに理解しあえる関係をつくれたら嬉しい」
地域に根ざして足元からの改革
だからこそ国や政治家に頼るのではなく、「この地に暮らす人たちが助け合うために、足元からの意識改革が大事」だと、地域に根ざした活動の重要性を説く。発足当時、後援に名を連ねた6団体は現在、35団体に増えた。普通の主婦の働きかけは、共感の輪となって確実に広がっている。
(2007.5.30 民団新聞)