掲載日 : [2007-06-06] 照会数 : 11550
民団が推進「再入国許可制度の適用免除」運動
[ 東京入国管理局(東京都港区) ]
[ 再入国許可制度の適用免除を求める民団の印刷物 ]
永住者は居住国へ帰る権利がある
民団は、再入国許可制度を永住韓国人に適用することは自国(居住国)を出、再び自国(居住国)に戻る権利を侵害するものであるとして、日本政府及び国会に対して「出入国管理及び難民認定法(入管法)第26条による再入国許可制度」の適用から免除することを求め、6月1日から署名運動を開始した。日本も批准している「市民的政治的権利に関する国際規約」(自由権規約)第12条4項は「何人も自国に戻る権利を恣意的に奪われない」と定めている。同項の「自国」とは「自らの国籍国」のみでなく永住者の「定住国」をも含むと解釈されている。自由権規約の実施機関である規約人権委員会(HRC)は、かねてから日本に対し、永住韓国人らに関して入管法第26条の適用除去を強く勧告している。
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人権規約委の対日勧告
許可制除去 強く要請
「法相裁量は権利奪う可能性」
自由権規約は第12条(移動・居住・出国および帰国の自由)第2項と第4項で、「すべての者は、いずれの国(自国を含む)からも自由に離れることができる」「何人も、自国に戻る権利を恣意的に奪われない」と定めている。ここにおける「自国」とは、単に「国籍国」だけでなく、定住し永住する外国人にとって「居住国」を意味する。
HRCは、自由権規約の各締約国が規約を誠実に順守することを監視することを目的に、規約第28条にに基づいて77年に構成され、締約国政府報告書や第一選択議定書に基づく個人通報について審議を行っている。
HRCは98年10月5日に日本政府の自由権規約国内実施状況に関する第4回報告書の審議を終え、日本に対する「最終見解」を採択した。その「主要な懸案事項および勧告」のひとつとして「入管法第26条」について次のように指摘している。
「出入国管理及び難民認定法第26条は、再入国許可を得て出国した外国人のみが在留資格を喪失することなく日本に戻ることを許可され、そのような許可の付与は完全に法務大臣の裁量であることを規定している。この法律に基づき、第2世代、第3世代の日本への永住者、日本に生活基盤のある外国人は、出国及び再入国の権利を剥奪される可能性がある。
委員会は、この規定は、規約第12条2及び4に適合しないと考える。委員会は、締約国(日本)に対し、『自国』という文言は、『自らの国籍国』とは同義ではないということを注意喚起する。
委員会は、従って、締約国に対し、日本で出生した韓国・朝鮮出身の人々のような永住者に関して、出国前に再入国の許可を得る必要性をその法律から除去することを強く要請する。
委員会は、政府に対し、これらの最終見解を基礎に行動を起こし、第5回報告の準備に際してこれらを考慮に入れることを要請する。また、委員会は、締約国がその国内法を規約に完全に沿ったものとするために、その法律の見直し及び適切な改正を行うことを継続するよう勧告する」
このようにHRCは、在日永住者らに再入国許可申請を課し、法務大臣の裁量で不許可にできる入管法第26条は規約違反であると明示し、「見直し及び適切な改正」を勧告している。
HRCはまた、99年10月18日に採択した自由権規約第12条に関する「一般的意見」で「『自国』の範囲は『国籍国』という概念より広く、国籍所有者だけでなく、当該国と特別なつながりなどがあり、ただの外国人だとは見なされない個人を含むものであるから、締約国の定期報告書には永住者の居住国に帰る権利に関する情報が含まれなければならない」と明記した。
こうしてHRCは、規約第12条の「自国」は「国籍国」という概念より広く、在日の2世、3世、4世などの永住者が日本へ戻る権利を認めたものであるとの見解を繰り返し明らかにしている。
日弁連も「是正」提言
一方、日本弁護士連合会は、第4回日本政府報告書に対するHRCの「最終見解」発表に先立ち、98年9月に報告書を発表。その中で、再入国の許否が法務大臣の自由裁量であることを批判、「出入国管理法上の再入国許可制度を在日韓国・朝鮮人などの永住者に適用することは、規約第12条が保障する自国を離れ、自国に戻る権利を侵害するものであるので、これを直ちに是正すべきである」と日本政府に提言している。
(下記「報告書」参照)
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日本政府の第5回報告
望まれる「適切な改正」実現
HRCは、「最終見解」(98年11月)で、在日永住者らに対する入管法第26条適用を自由権規約違反であると指摘し、再入国許可制度の「見直し及び適切な改正」を日本政府に強く勧告していた。
これと関連して、日本の国会は99年の入管法改正の際、衆参両議院の法務委員会において、特別永住者の再入国許可制度のあり方について「政府は、次の諸点について格段の努力をすべきである。…特別永住者に対しては、その在留資格が法定されるに至った歴史的経緯等を十分考慮し、再入国許可制度の在り方について検討するとともに、運用については、人権上適切な配慮をすること」(参院)、「特別永住者に対しては、その歴史的経緯等にかんがみ、再入国許可制度の在り方について検討するとともに、人権に配慮した適切な運用に努めること」(衆院)との付帯決議を行っている。
しかし、日本政府は、この間、再入国許可制度の「見直し及び適切な改正」に取り組むことはなかった。
昨年12月にHRCに提出した第5回政府報告書も、以下のように現行再入国許可制度の説明にとどまっている。
「特別永住者については、その歴史的経緯を考慮し、我が国における法的地位の一層の安定化を図るため、入管特例法によりいくつかの特例が定められており、再入国許可に関しては、①再入国許可を受けて上陸する際に、上陸拒否事由への該当性について審査されることはなく、有効な旅券を所持するとの要件に適合すれば、入国審査官から上陸許可の証印を受けることができ(入管特例法第7条)、②再入国の許可の一般的な有効期間は『3年』であるところ、特別永住者については『4年』となっている(入管特例法第10条第1項)。さらに、入管特例法第10条第2項により、法務大臣は、特別永住者の本邦における生活の安定に資するとの入管特例法の趣旨を尊重するものとされている」
日本政府は、日本で生まれ育ち、日本に生活基盤を置く2世、3世、4世ら永住者に、日本に戻る権利を未だに保障していない。
永住韓国人といえども、再入国の諾否は法務大臣の裁量に委ねられ、再入国許可を得られないまま出国すれば、その時点で在留資格・永住資格を失い、日本に再入国の際には新規入国者として扱われて入国拒否もありうるというように、日本帰国の保証はない。
実際、日本法務省は80年代、指紋拒否者に対する制裁措置として、恣意的に再入国不許可処分を行った。
自由権規約第12条に則して、在日永住者らに対する再入国許可制度の早急な「見直し及び適切な改正」が強く望まれている。
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不当な人権侵害 民団論旨
日本の再入国許可制度と関連した民団の要望事項および要望趣旨は次の通り。
要望事項】
(1)永住資格を持つ在日韓国人の出国の自由及び自国(居住国)に戻る権利を保障し、出入国管理及び難民認定法第26条による再入国許可制度の適用から免除すること。
(2)そのための法改正をし、法が改正されるまでの暫定措置として、1回のみの許可申請とし、手数料を免除すること。
(3)過去に再入国の許可を受けずに出国し、また再入国許可の期限が過ぎたため永住資格を剥奪された在日韓国人に対し、元の永住資格を保障すること。
【要望趣旨】
歴史的経緯をもって日本に居住する在日韓国人の大多数は永住資格を持ち、日本で生まれ育ち、日本に生活の本拠を有している。とくに、在日2・3・4世は、本国に帰国するべき住所を持たず、今なお再入国許可を受けなければならないのは不当であり、人権侵害である。
日本政府に対する国連規約人権委員会の勧告においても、「『自国』という文言は、『自らの国籍国』とは同義ではなく、日本で出生した韓国、朝鮮出身の人々のような永住者に関して、出国前に再入国の許可を得る必要性をその法律から除去することを強く要請する」と指摘し、再入国許可制度の廃止を要請している。
入管特例法は特別永住者の「生活の安定に資する」ことを尊重するとしているが、再入国許可には経費も手間もかかり、私たちにとってこの制度は大きな負担となっており、直ちに是正されるべきである。
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日弁連「報告書」
【結論と提言】
出入国管理法上の再入国許可制度を在日韓国・朝鮮人などの永住者に適用することは、規約12条が保障する自国を離れ、自国に戻る権利を侵害するものであるので、これを直ちに是正すべきである。
【日弁連の意見】
規約12条は、「すべての者は、いずれの国(自国を含む)からも自由に離れることができる」と規定し(同2項)、また「何人も、自国に戻る権利を恣意的に奪われない」と規定している(同4項)。
ところで日本の出入国管理及び難民認定法は、事前に再入国の許可を受けて出国した外国人に限って、当該外国人の有していた在留資格を失うことなく、再び日本に入国することを認めている(入管法26条)。そして再入国を許可するか否かは、法務大臣の自由裁量に委ねられている。外国人にとっては、再入国の許可を受けずに出国すれば、それまで有していた在留資格を失うことになり、再び日本に入国できる保障はなくなるので、日本に生活の本拠を有している外国人にとっては、再入国の許可が得られるか否かは、日本国外に一時旅行することができるか否かを事実上左右する事項となっている。
永住者、とりわけ在日韓国・朝鮮人の大多数は、日本で生まれ、日本で育ち、終生日本で生活することを予定している人々である。こうした永住者に対して、再入国の許否を法務大臣の自由裁量にかからしめる取扱いは、実質的にこれら永住者の出国及び入国の自由を著しく阻害する。永住者の生活の本拠は日本社会に存在しているのであり、規約12条4項にいう「自国に戻る権利」には「永住国に戻る権利」が含まれると解せられるのであるから、永住者には自由に出国し、再入国する権利があるというべきである。再入国の許可を法務大臣の自由裁量にかからしめることは、「自国に戻る権利」に対する侵害となる。
特に、日本に生まれ、日本で育ち、終生日本を生活の本拠とすることを事実上予定している大多数の韓国・朝鮮人にとっては、日本は国籍国以上に規約12条4項にいう「自国」であり、「自国に戻る権利」について、日本国籍を有する者と別異の取扱いをすべき合理的な理由はない。
(2007.6.6 民団新聞)