掲載日 : [2007-08-29] 照会数 : 7211
同胞高齢者に届かない行政の福祉情報
大阪・泉州地域実態調査で確認
和泉市人権協 民団・総連支部と合同で
【大阪】大阪府泉州地域(和泉市、泉大津市、高石市、忠岡町)における在日高齢者福祉実態調査の結果が、このほど明らかとなった。在日高齢者の本格的な実態調査は泉州地域では初の試み。行政や大学などの研究機関ではなく、地域在住の2・3世、そして関心のある地域住民が調査員として聞き取りを行った。調査結果は今後、在日高齢者のニーズにあった自主的な地域福祉サービスに向けた基礎資料として利用される。
行政の「出前講座」計画
地域で「食事会」拡大も
泉州地域には同胞高齢者の居場所として大阪府の「街かどデイハウス」制度を活用した「ムグンファ・ハウス」(民団泉北支部会館内)と「トンボ・チャンス・マダン」(総連泉州北支部会館内)という2つの施設がある。いずれも「自立」高齢者のための利用施設であり、「要介護」状態になれば介護保険事業のデイサービスに移るのが決まりだ。
ところが、地域には在日1世のニーズに応えられる介護保険事業所がなく、「要介護」になっても引き続き定員の限られた街かどデイハウスに留まる事態に。このことが両施設の財政を圧迫してもいた。
両施設の窮状を知った和泉市人権協会はまず、在日高齢者の福祉サービスの希望をくみ取るのが先と、06年度事業の柱に実態調査を組みいれた。調査は大阪府人権協会からの助成を受け、泉大津市と高石市、忠岡町の各人権協会にも呼びかけての「広域連携事業」とした。実行委員会(杉本弘文委員長、和泉市人権協会会長)には民団泉北支部・金徳植支団長、民団泉大津支部・崔東吉支団長、総連泉州北支部・禹常煕委員長がそれぞれ副委員長として加わった。
調査結果で特徴的だったのは、在日高齢者が介護保険制度に代表される現在の福祉制度をまったく理解していない、または、関心の低いこと。調査結果を報告した小泉一人さんは「1世は識字の問題もあって情報が行き届いていない。当事者の権利意識もあるが、やはり在日高齢者への行政の理解の欠如、情報提供のあり方に問題がある」と見ている。
実行委員会では今後、「在日コリアンの福祉を考える会」(仮称)を立ち上げ、介護保険や福祉制度について周知させる行政による「出前講座」の実施と学習会、さらには民団泉北支部が実施している食事会を地域に広げる計画だ。将来的には同胞高齢者のニーズに応えられる介護保険サービスなどの実施主体づくりが必要としており、近畿圏の現場を視察することにしている。
民団泉大津支部の崔支団長は「この調査が日本の行政には何もしてもらえなかったという認識の在日高齢者に、少しでも『生きていてよかった』と思ってもらえる福祉施策が前進する手がかりとなることを期待します」と話している。
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調査の概要
期間は06年8月21日〜同10月19日。和泉市、泉大津市、高石市、忠岡町の3市1町に居住する65歳以上の在日高齢者547人を対象に調査し208人から回答を得た。
主な調査項目は識字状況、介護保険サービスの利用状況、福祉サービスの情報源、街かどデイハウスの利用状況、外国人向け福祉サービスの利用意向など。
回答者の86%が介護保険サービスの要介護認定の申請をしていなかった。「どのようなサービスがあるのか分からない」「利用方法がわかりにくい」と全体の半数が「わかりにくさ」を指摘、「利用料が高く感じる」などの不満も。このほか、在日外国人が運営している事業者や施設のサービスを受けたいとの意見も見られた。
(2007.8.29 民団新聞)