掲載日 : [2007-11-28] 照会数 : 5671
<民論団論>南北首脳会談合意の幻想
民団川崎支部議長 金一男
まず非核化こそ
見られぬ自己変革の意志
11月7日付け民団新聞に、「経済協力の観点から見た南北首脳会談の成果」と題する慶南大北韓大学院の梁文洙教授の寄稿があった。その要旨は、10・4共同宣言は韓半島に平和と経済の善循環を双生的にもたらすものであり、その核心的事業が北朝鮮軍部の保障による西海平和協力特別地帯構想であるとし、海州工業団地・西海共同漁労などの計画に韓国企業は「干天の慈雨」という反応を示したが、合意が引き継がれるためには、なによりも国民の支持が緊要だ、というものである。
悪政が招く孤立と困窮
この合意が2000年の6・15共同宣言から間もない時期になされたものなら、多くの国民がいったんは梁氏の主張に耳を傾けたかもしれない。
しかし、その間に北韓は核兵器を開発してすでに数個の核爆弾を保有した。また、テポドンなど長距離ミサイルを開発した。シリアに核技術を拡散した疑いももたれており、イランには射程2500㌔のミサイルを売りつけている。国内的にも脱北者への弾圧を強化し、北同胞の生活に直結する自然市場を封鎖した。また、最近普及し始めた民間家庭の電話線も切断している。
拉致・麻薬・紙幣偽造・密貿易とともに、68年の1・21ゲリラ事件、83年のラングーン爆破事件、87年の大韓航空機爆破事件など、一連のテロを敢行してきた北韓の体質は、何も変わっていない。少なくとも、変わっていくのだという明確なシグナルを、具体的な行動によって発信してはいない。
北の孤立と困窮は、もともと北当局の悪政が招いたものだ。「主体農法」で森林を破壊し、ミサイルと核開発に資源と人材を浪費して再生産体系を崩壊させた。また、一連の攻撃的な体外政策により、半島の北部を陸の孤島にしてしまった。すべての結果は、「ウリ式」と「先軍政治」の帰結だった。
この間の南北経済協力についても、たとえば開城工業団地の出荷額は増えたが、大半の企業は赤字経営で、政府の補助金をあてにして維持されている。日本でも、北韓との貿易にかかわった善意の在日同胞企業がすべて、倒産に追い込まれたことはよく知られている事実だ。
北韓の対韓経済政策は、「土地貸し」「労賃稼ぎ」そして「援助とりつけ」にとどまっている。交流事業においても、昨年の人的往来は10万人に達したが、北から南に来たのは政府関係者を中心としてわずか870人だった。観光は決められたルートから少しもはみ出すことのできない「かごの鳥観光」が続けられている。とうてい、「経済協力」「南北交流」といえるものではないのが実情だ。
北当局に何がしかの主体的な意志があり、また、何かきちんとした戦略なり戦術なりがあるかのように考えるのは、残念ながら幻想に過ぎない。
北当局は、イデオロギーと経済的必要性との葛藤の中で、また、権力維持と経済的当為との対立の中で、優柔不断に揺れ動いてきた。これが、この間の事情のすべてである。このディレンマは、北当局が経済的必要をイデオロギーに優先させ、また、経済的当為を権力維持に先行させない限り解決できない。
主導権握り正しく導け
にもかかわらず、経済的必要もイデオロギーも、経済的当為も体制維持もと、むなしく二兎を追ってここまで来たのだ。政権の都合で引きずり回されてきた北同胞の苦しみについては、また、われわれ在外同胞の悲しみについてはここでは言うまい。
大切なのは、2国間関係の当事者としての韓国政府の主体的なイニシアチブである。安全保障にきちんと配慮しつつ、相互主義の原則に立って北を正しく導いていくのだ、という意志力である。韓国が責任を持つべきイニシアチブを北にゆだねるなら、北はさらに漂流を続けていくだろう。
北韓が体制と経済的当為の自己矛盾に決着をつけられないまま、核兵器とミサイルとをセリ売りしている現在がまさにその状態である。見返りが得られるかぎり妥協のポーズをとり続けるであろうが、やがて従来のように「食い逃げ」してしまう公算は高い。たしかに、体力的に衰弱した北は、「経済重視」のポーズをあちこちで見せてはいる。しかしながら、イデオロギーと経済、体制と経済の問題についてきちんと理論的に整理し、総括した形跡はないからだ。
今回の合意を引き継ぐために「緊要」なのは、梁氏のいうような「国民の支援」ではない。北当局の自己変革の意志、身を捨てて民族全体の利益のために行動する覚悟、ただそれだけなのだ。われわれにできることは、彼らがそうせざるを得ないように、与えるべきものは与え、要求すべきことを要求することだけであって、「アリラン公演」の参観で「体制」強化を手伝うことなどでは決してない。
北韓経済の再建を願いながらも、核を持つ限り北当局の言うことを信じない人々がいること、そしてそれが韓国国民の大多数であることを知るべきだ。
信じられぬ北韓の言動
北韓当局の言動には、人を信じさせる上で決定的に足りないものがある。まずは、核兵器をセリにかけるなどという恐ろしいことをやめるべきだ。そして、「非核化は先代の遺志」だなどと詭弁を弄することをせず、先行的にみずからそれを放棄すべきである。決してできないことではない。
そうすれば、彼らが代替として希望する軽水炉以上のものが得られるはずだ。「体制」の問題については、北同胞の英知が解決するであろう。
(2007.11.28 民団新聞)