掲載日 : [2007-12-05] 照会数 : 5990
イルボンで出会いのエッセイ<4> 金益見
「在日や」 その一言で近づけた
私は、大盛りが売りのレストランでアルバイトをしている。
うちの店は体育会系で、とにかく威勢がよく、どちらかといえば文系の私は、よく失敗をして怒られる。
最初の頃は、バイト前夜は眠れなかった。やっと眠れても、店で一番怖い副店長が夢に出てきて、夢の中でも怒られる。
副店長は、威勢のいいメンバーの中でも、特に恐れられている人物だ。すごい威圧感があるので、存在だけでも人を緊張させるのだが、仕事が遅かったり、失敗すると、女子でもベテランでも容赦なく怒鳴られる。
しかし、副店長は、ただ怖い人というわけではない。
副店長の目線や動きを観察していると、お客さんへの気配りや、あいさつを大切にしていることがよくわかる。
また、副店長が一番怒鳴るときは、そういったことがおろそかになった時だ。
しかし、そうは言っても、私は副店長の前では、緊張して肩が上がりっぱなしだし、副店長もまた無口なので、二人でプライベートな会話はほとんどしたことがない。
そんな副店長に、ある日突然話しかけられた。休憩時間に、家から持ってきたバナナを食べようとした時だ。
「…法事やったんか?」私はびっくりしすぎて、持っていたバナナを落としそうになった。
「えっ?」。「いや、金さんよくバナナ食べてるから法事かなぁ思って。法事の時って、果物たくさん奉るから、バナナとかすぐ黒なるもんは、はよ食べっ! ておかんに持たされるやろ」
私は韓国人の法事の微妙な部分をよく知っていることに驚いて、「副店長、なんで法事とか知ってるんですか?」と尋ねた。
すると副店長は、帽子を目深に直しながら、 「俺も在日や。帰化したけどな」と呟いた。
私は、怖いけれども、その仕事ぶりに憧れていた副店長と一気に近づけたような気がして嬉しくなり、「よかったら、このバナナ半分こしませんか?」と、その場でバナナを半分に割って渡した。
「あ、ありがとう」。副店長は、驚きながらもバナナを受け取ってくれて、二人で無言で食べた。
私は、これからも法事の後のバナナを持ってきて、副店長と半分こしよう! と思った。
(2007.12.5 民団新聞)