掲載日 : [2008-01-30] 照会数 : 7666
韓国食育の歴史<1> ナムル
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先代の知恵にじむ傑作
ナムルは、食用になる植物、草木の新芽や葉類、またこれらの材料を用いて調理したものの総称になる。クッ(汁)やキムチに次ぐ食膳を彩る名脇役のナムル。その歴史は仏教伝来後、殺生禁止令で精進料理が長い間続くが、朝鮮朝時代に山野に自生する植物で戦乱や飢饉の際、食糧になる救荒(きゅうこう)食品の研究によって生まれた。今、われわれの食生活にも重要な役割を及ぼしており、この分野では世界的先進国と評価されている。
韓国の山野に自生している植物のなかで、800余種が食用として用いられている。それぞれに適した独特の調理法を創案した先代の知恵が込められたナムルは、現代の栄養学的見地からも傑作品といえる。
茹でたり、炒めたり熱処理をした熟菜(スッチェ)の場合、熱湯でさっとゆで臭みだけを除き、栄養分を損なわないように処理する。ヤンニョンを指先で軽くもみ込んだ(ソンマッ)ナムルは、美味しいだけではなく郷愁をも覚える。ごま油を加えるのは、ビタミンAの吸収を助ける効果などがあり、体に必要なビタミン類を与える傑作品と絶賛せざるを得ない。
毎年、主婦たちは季節の山野草を摘んで乾かし冬に備えた。特に乾かした野菜は夏負けしないという言い伝えから、旧正月の上元(15日)には陳菜といって9種類のナムルと、5穀飯を食する風習がある。最近は健康食として評価されている。
さらに韓国では昔から冬の間、主婦たちはビタミンC、ミネラルを補うために現在の水耕栽培の原点となる方式で、大豆もやしや緑豆もやしを育てナムルにした。一昔前までは薄氷が解けるころ、野原や山麓では色とりどりの服を着た少女たちの山菜などを摘む姿を見ることができた。
現在ではこの風景は山村でしか見られなくなった。市場に出回っている30種類の山野草のほとんどはビニールハウスで栽培されているが、これほど多彩なナムルを楽しむ民族は、韓国人をおいてほかにはいないと言っても過言ではないだろう。ナムルは韓国の食文化であり、先祖の残した遺産である。
料理研究家 姜連淑
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プロフィール
姜連淑
料理研究家。韓国生まれ。梨花女子大学で栄養学を専攻。卒業後、中学・高校で教鞭をとる。62年来日後、韓国料理教室を主宰。韓国伝統料理や食文化に造詣が深く、テレビや雑誌で活躍。韓国文化院、韓国観光公社などでの講演や料理講習も多い。現在、自宅で月に1度、韓国料理同好会を主宰。
(2008.1.30 民団新聞)